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中国空海軍とも強化――習政権ジレンマの裏返し

ニューズウィーク日本版 / 2016年7月25日 8時25分

 習近平政権は人民に対してメンツ丸つぶれなどという単純な言葉で表現できるレベルではない。そうでなくとも中共政府に不満を持つ中国人民が政府転覆に動くきっかけを作ろうとするかもしれない。

 そのため、あまり過激に愛国主義を煽るわけにもいかないのである。排外デモが、反政府デモに転換していったら困る。その可能性は、胡錦濤政権における反日デモで、イヤというほど見て来た。だから、習近平政権になってからは、反日デモさえ行なわせないように徹底して抑えつけてきた。その分だけ売国政府と呼ばれないようにするために、対日強硬姿勢を取ってきたのである。



 ところが今では、「敵」は日本だけでなく、南シナ海で「航行の自由」を主張して、中国に言わせれば「軍事行動」を行なっているアメリカだ。アメリカ系の商品ボイコットを訴える抗議運動が始まっているが、これは危険だ。中米が「新型大国関係」として世界を君臨するという習近平政権の外交スローガンもまた、メンツ丸つぶれになるからである。

フィリピンの新大統領が親中路線を翻(ひるがえ)す

 かてて加えて、中国が致命的な打撃を受ける事態が発生した。

 6月30日に就任したドゥテルテ大統領は、就任式の後の閣議で、「フィリピンに有利な判決が出ても、中国とは話し合いで解決する」としていたのだが、中国の王毅外相のあまりに高圧的な態度に、「中国に譲歩しない姿勢」を表明したのだ。

 中国大陸以外の中文ネット情報によれば、7月19日、フィリピンのヤサイ外相がフィリピンの「ABS-CBN」ニュースの取材を受けて、次のように語ったという。

――モンゴルでアジア欧州会議(ASEM)に出席している間、場外で王毅外相と会った。そのとき王毅外相は、「ハーグの判決結果に関しては一切触れることを許さない」という前提条件で、二国間会談を申し出てきた。だから私は会談を断った。なぜなら、それはフィリピンの国益にそぐわないからだ。フィリピンの主要な任務は、スカボロー礁(黄巌島)におけるフィリピン漁民の利益を守ることにあるからだ。

 中国のこのような高飛車すぎる姿勢こそが、国際社会から締め出される最大の原因を作っていることを、中国は分かっていない。

 一党支配体制を維持することこそが、中国の最大の課題なのだが、その求心力を失いつつあるため、なりふり構わず動き始めている。

 その課題のために、自らを追い込み始めた中国――。

 しかし、9月初旬には中国でG20が開催される。勇ましい言葉通りに空海軍強化による行動を、いま取ることはできない。

 さあ、どうするか――?

 習近平政権のジレンマはエスカレートしていくばかりだろう。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)



※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


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