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自称「救世主」トランプがアメリカを破壊する

ニューズウィーク日本版 / 2016年8月5日 15時30分

 共和党全国大会のステージで自身の巨大な顔の下に立ち、傲慢な思い上がりを全身にみなぎらせたトランプ。社会の急速な変化に怯え、不満を募らせている人々に、彼は甘い誘惑の言葉を投げ掛けた。強いリーダーが1人出現すれば、社会の転換期の混乱とストレスは魔法のように解消される、と。

 プラトンの著作『ゴルギアス』では、ソクラテスが「古代ギリシャのトランプ」とも言うべきカリクレスと論戦を繰り広げる。テーマは理想の統治。カリクレスは強者が弱者を支配するシステムがいいと言う。「力は正義なり」という考えだ。世の中には「勝者」と「敗者」しかいないというトランプの考えと相通じるものがある。

 だがソクラテスは言う。カリクレスやトランプのようなデマゴーグは人々の不安に付け込み、忠誠心を吸い取り、自分こそが人々を救う強いリーダーだと思い込ませる。揚げ句に人々の自由を奪い、希望さえも打ち砕く。

 トランプの手法はソクラテスの時代から知られていたということだ。それにまんまと乗せられるのか。私たちの良識と判断力が問われている。アメリカ合衆国は今、震えている。

[2016.8. 9号掲載]
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA諜報員)


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