差し迫る核誤爆の脅威
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月15日 16時35分
核の脅威を訴える映画や書籍は多い。だが、核兵器運用上の事故が原因で多くの命が奪われるというシナリオは、これまで映画化されてこなかった。本作を指揮した監督のケナーは派手な核戦争ではなく、実際にアーカンソー州で起きた事故を掘り下げることで地方の映画館の客席が埋まるほどドラマチックなドキュメンタリーに仕立て上げたことだ。
「この緊迫感あふれる映画をきっかけに、戦略核の維持と引き換えにアメリカが背負う代償やリスクは何なのか、国全体で議論が本格化するはずだ」と核安全保障に詳しい米ジョージ・ワシントン大学のジャン・ノラン教授は言う。
身震いするほど恐ろしかった
1980年9月18日の夜、メキシコ州のサンディア国立研究所で核兵器の研究に携わっていた科学者のロバート・ピュリフォイは、一本の電話に耳を疑った。アーカンソー州ダマスカス郊外のミサイル発射基地で、大陸間弾道ミサイル「タイタンⅡ」の保守点検作業をしていた若い作業員が、誤って重さ3キロほどの工具を数メートルの高さから落とした。それでミサイルの燃料タンクの表面に穴が開いたというのだ。
燃料漏れから大規模な爆発が起きれば、核弾頭が爆発する一触即発の危機だった。格納施設内にいた4人の作業員は、非常口からの避難を余儀なくされた。その後、指揮命令系統の乱れで遅れが生じ、決死の覚悟で緊急出動した技術者たちが事故現場に立ち入るまでに、すでに数時間が経過していた。
間に合わなかった。ついに格納施設内で燃料爆発が起き、9メガトンという当時のアメリカで最強の威力を誇る核弾頭が爆風で空高く吹き飛び、30メートル離れた地上に落下した。「自分は何としても事故現場に行かねばならないと覚悟していた。その核弾頭でいつ核爆発が起きても不思議ではなかった」とピュリフォイは当時を振り返る。
幸い、最悪の事態は免れた。安全装置が作動し、核爆発は起きなかったのだ。政府関係者の中には、大惨事に至らなかったのを良いことに、アメリカの核兵器は製造から30年以上経っても安全だと証明されたと豪語する者もいた。だがピュリフォイの危機感は消えなかった。「あの事故に関する記録を隅々まで読みあさって、身震いするほど恐ろしくなった」
1961年には、ノースカロライナ州上空で米空軍のB-52爆撃機が空中分解し、積んでいた核爆弾2発が地表に落下する事故が起きた。「うち1発は起爆のために必要なすべてのステップが実行に移され、地上に落下した時点で爆発用のシグナルが送られていた」とシュローサ―は映画で語っている。「水爆の爆発を寸前で阻止したのは、たった一つの安全装置だ」
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