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差し迫る核誤爆の脅威

ニューズウィーク日本版 / 2016年8月15日 16時35分

核の安全神話

 安全装置はきわめて簡素なスイッチだと説明したうえで、「万一あのとき起爆用の2本のワイヤーが接触していれば、核爆発が起きていた。そうなれば、この世の終わりだった」とピュリフォイは言う。広島に投下された原爆の267倍の威力がある4メガトンの核弾頭が爆発すれば、ノースカロライナ州全土が瞬時に壊滅し、北は1000キロ離れたニューヨークに至るまで、人体や作物の命を奪う放射能被害が広がっていたとされる。 

 アメリカ国家安全保障文書館の上級アナリストであるウィリアム・バーによると、当時、危機感を募らせたピュリフォイと同僚のグレン・ファウラーは、「高電圧の熱電池が爆発すること」により水爆が起爆する危険性をしきりに訴え始めた。二人は1970年代に入ると、国防総省に事故で焼け焦げた配電盤を持参して状況説明を行うなど、「安全対策は十分」だと信じきっていた政府高官にとっては耳障りな存在となっていった。「まるで国の研究所が自ら失態を暴露しているようで、憤慨する関係者もいた」とバーは言う。



 当時の米軍は、B52戦略爆撃機や原子力潜水艦、ミサイル発射台、海外の保管基地などに2~3万発の核弾頭を搭載しており、加えてフランスやイギリス、ロシア、中国も独自に核兵器を保有していた。インドやパキスタン、北朝鮮といった危うい国々が核兵器を手にするのも時間の問題だった。

 ジミー・カーター政権で米国防長官を務めた物理学者のハロルド・ブラウンは当時、膨大な数の核兵器を保有すること自体が、アメリカ本土に切迫した脅威を与えていると考えていた。「政権内で核保有に関する懸念が十分に共有されていなかった」と言う。そしてアーカンソー州の事故後もカーター政権は、ソ連との戦略兵器削減交渉の頭数に入れるため、古い核弾頭を廃棄せず保有し続けたという。

 1980年の事故後も、米ソの交渉は実らなかった。現在、アメリカとロシアは戦略核兵器の削減に合意しているが、アメリカはいまだに7000発の核弾頭を保持。ロシアと中国を狙うにしては保有数があまりに多いと専門家も指摘している。「核兵器には、常に偶発的な核爆発の危険性がつきまとう」と、1991年にサンディア国立研究所を退職したピュリフォイは言う。

「事故は必ず起きる。それが明日なのか、何百万年も先になるのかは分からない。確かなのは、いつか事故は起きるということだ」



ジェフ・スタイン


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