希望のない最小の島国ナウルの全人口をオーストラリアに移住させる計画はなぜ頓挫したか
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月17日 20時33分
同年、豪政府はナウル移住計画を策定する統括者を新たに任命し、太平洋に「有望な島」が残っていないか、徹底的に調査させた。フィジーやパプアニューギニア、ソロモン諸島、豪州北部のノーザンテリトリー周辺海域に至るまで候補地を探したが、結局どこも不適当とされた。十分な仕事がなく、地元住民の反対もあったからだ。
クイーンズランド州のフレーザー島も候補に挙がったが、移民を支える経済的な見通しが立たないのを表向きの理由に、政府が却下した。実際は、林業界から猛反発があったとされる。
カーティス島への移住計画
1963年になって、クイーンズランド州グラッドストンの近くにあるカーティス島が正式な候補地として選ばれた。当時この島は私有地だったが、豪政府が購入し国有化したうえで、ナウル国民に対し土地を自由に保有する権利を与える計画だった。構想では、牧畜や農業、漁業、商業などの経済活動を確立させ、住居やインフラも整備。現在の価値で2億7400万豪ドルに上る費用は、支援国が分担することとした。
だがナウルの住民は、カーティス島への移住を拒否した。白人のオーストラリア人と同化してナウル固有のアイデンティティを失うのがいやだったからだ。それに多くの住民は、加害者の豪政府にとって、島の完全復興にかかる莫大な費用に比べれば移住費用はたかが知れており、負担回避だと反発していた。
一方の豪政府も、カーティス島の主権放棄を拒んでいた。ナウル人はオーストラリア国籍を取得でき、広範な自治権も付与されるが、カーティス島がオーストラリア領であることに変わりはないという立場だ。
計画はナウル国民の希望に沿う誠実で寛大なものだと自画自賛していたメンジーズ政権は、予想外の反発に苛立ち、態度を硬化させた。
結局、移住計画は幻に終わった。
2003年にこの問題が再浮上したことがある。当時のアレクサンダー・ダウナー豪外相が、ナウルは「財政が崩壊しており、将来の発展が見込めない」と発言。具体的な解決策として、ナウル政府に対して全住民の国外移住を再提案したのだ。だがナウルは、オーストラリア領に移住すれば国家としてのアイデンティティや文化が失われるとして取り合わなかった。
太平洋上の計画移住
昨今、キリバスやツバルのように気候変動による海面上昇で水没の恐れがある太平洋島嶼国に対して、「計画移住」を盛んに勧める風潮がある。
【参考記事】モルディブの海中閣議は茶番
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