希望のない最小の島国ナウルの全人口をオーストラリアに移住させる計画はなぜ頓挫したか
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月17日 20時33分
だが、計画移住には、住民の間に世代を超えて深い心の傷を刻んできた歴史があることを忘れてはならない。1945年、リン鉱石に目が眩んだイギリスがバナバ島の住民を半ば強制的にフィジーに移住させ、バナバ人がいまだ祖国の島に帰還できないまま今日に至っているように、太平洋の島国は強制移住による苦い過去を経験してきた。だからこそ、そうした島国の住民にとって、島外移住というのは最後の手段でしかない。あらゆる選択肢を真剣に検討し、丁寧な議論を尽くした末の移住計画でなければ、不幸な結果に陥るのが目に見えている。
ナウルは気候変動の影響に極めて脆弱な国だ。リン鉱石の過剰な採掘により地表の90%で石灰石が剥き出しになっており、農業や産業を営むこともできない。
失業率が非常に高く、雇用機会も不足、民間セクターなどないに等しい。オーストラリアのために難民収容施設を運営するだけで、何百ドルもの大金が流れ込んでくるというなら、どう考えても魅力的なビジネスだ。
だが、強制的に移送された難民がナウルに定住するのは非現実的で持続不可能だということも、この国の破綻した経済状況を見れば明らかだ。劣悪な環境で子どもや女性に対する虐待が横行し身の安全すら確保できない収容所では、自殺を図る難民が後を絶たない。だが豪政府は人権団体からの相次ぐ批判をものともせず、難民をナウルへ移送し続けている。
【参考記事】オーストラリア「招かれざる客」を追い払え!
脆弱なナウルは、金と引き換えに再びオーストラリアに搾取されようとしている。ナウルの未来は、今後もオーストラリアとの不健全な相互依存関係に翻弄されそうだ。そんななか、カーティス島の事例は、善意の有無に関わらず、「計画移住」は決して万能策ではないという教訓を示している。
Jane McAdam, Scientia Professor and Director of the Kaldor Centre for International Refugee Law, UNSW Australia
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
ジェーン・マカダム(豪ニューサウスウェールズ大学教授、専門は国際難民法)
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