インドネシアが南シナ海に巨大魚市場──対中強硬策の一環、モデルは築地市場
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月29日 16時35分
こうして拿捕した各国の違法漁船は、インドネシア政府が「みせしめ」として無人状態を確認した後に海上で爆破、撃沈させるという強硬手段をとっている。
【参考記事】中国密漁船を破壊せよ インドネシアの選択
産業振興の目玉は「築地魚市場」
こうした海上での一触即発のバトルの一方で、インドネシアのジョコウィ政権はナツナ諸島の産業振興、開発にも力を入れようとしている。ハーグ仲裁裁判所の裁定を受けて「今後中国がさらに活動を活発化させる懸念がある」として、インドネシアは同諸島海域での軍事力増強と同時に「ナツナを地域の一大漁業拠点とする構想」と硬軟両様の対策を打ち上げたのだった。
具体的には年間漁獲量100万トンを取り扱う巨大市場ゾーンの建設を目玉として、冷凍保存設備が完備し水産加工工場を併設した約1,000平方メートル規模の魚市場を開設、地域の流通拠点にするというものだ。政府の試算では現状では周辺海域の水産資源の約9%しか活用できておらず、これを限りなく向上させる計画だ。
構想を具体的に説明したリザル・ラムリ海事調整相は「ナツナには東京の築地魚市場のような魚市場をつくりたい」と語っており、築地魚市場をモデルにしたナツナ魚市場の誕生が期待されている。
外国人観光客のビザ発給要件を緩和あるいは撤廃して、2020年の東京五輪を目指して観光振興を進めている日本に中国人に加えて最近は多くのインドネシア人やマレーシア人、タイ人が訪れている。中でも「ツキジ・フィッシュ・マーケット」は東京を訪れる東南アジアからの観光客の人気スポットであることから「モデルとして築地魚市場の名前が出たものとみられる」(在ジャカルタ日本人記者)という。
中国の真の狙いは海底資源
こうした構想実現のためジャワ島周辺で操業する民間漁船の約400隻をナツナ海域に派遣して漁獲高の40%増を目指し、漁民を周辺の島々に移住させることで漁業関連産業の育成やインフラの整備、そして最終的には観光地としての開発も視野に入れているという。
こうしたナツナ総合開発計画とも言うべき構想の背景には、南シナ海全域で国際司法の裁定すら無視して身勝手な主張と危険な行動を続ける中国へのインドネシア政府としての断固とした強硬な姿勢がある。
中国がこの海域に注ぐ関心の最大の理由は、実は世界有数の埋蔵量とも言われる豊かな海底資源にあるのだ。インドネシアが確認している天然ガス田、石油田は16あるが、これまでに生産体制に着手しているのは5鉱区にとどまっている。このためインドネシア政府エネルギー鉱物資源省が国営石油ガス公社プルタミナに対してさらなる資源調査と4つの鉱区での入札準備などの「開発のペースアップ」を指示した。
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