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ギリシャの『国境なき医師団』で聞く、「今、ここで起きていること」

ニューズウィーク日本版 / 2016年9月7日 17時5分

 だが、どこに行けばいいというのか。
 
 そこにドイツなどが手を差し伸べる(俺が帰国してからすぐ、メルケル首相の支持率が急落したというニュースが日本にも流れた。受け入れた難民によるテロが原因だと解説されていたが、それもひとつの情報操作によるだろうと思う。もしドイツが難民を受け入れなければ、彼ら国を出た者たちは一体どこでどう生きればいいというのか。ドイツの寛容を一方的に非難して誰が得をするのだろう。難民をほとんど受け入れずにトランプ共和党大統領候補に誉められているような日本か? いや、俺は帰りの飛行機の中にいるのだった。帰国後のニュースはまだ知りはしない)。

 したがって難民になってしまった人々は北を目指す。にもかかわらず、そこで「EUートルコ協定」が締結されてしまう。

 一対一というあたかも非合法と合法の正当な人身交換のごとき枠組みで。



 実際は一対一などではないと俺は思う。あえて言えば、あらゆる国の難民たちがシリア難民に権利を譲らされるのに近い状況なのだ。世界政治の複雑怪奇さが生み出した、これは非情な数学なのに違いない。

 シリアの中でアサド政権と反政府勢力が戦い、ISが勢力拡大を狙い、政権側のバックにロシアがいて、反政府軍はアメリカに支援を受ける。かの国の中の政治状況は泥沼化の一途をたどっている。シリアだけで1000万人以上の難民・避難民という現実から、その危機がいかに大きいかわかる。
 そこに、まずEUは援助をする。

 けれど、難民はアフガニスタンからも来るのだ。
 アフリカ諸国からも来る。
 イラクからもやって来る。

 彼らは見捨てられ、日々増加し続けている。
(@MSF_sea←例えばこのツイッターアカウントをのぞいてみて欲しい。今日どんなゴムボートが救助されたか、沈んでしまったかが日々報告されているから)

「イドメニに今は3000人」

 マリエッタさんは黒く大きな瞳をこちらに向けて言った。左手の指先はマケドニア国境を差していた。

 「それから市内のエリニコ、ここは昔空港だった敷地ですが、そこに1000人。他にも市内には700人。テルモピレス難民キャンプに200人」

 示される場所は次々変わった。全土あちこちへと指は動いた。様々なギリシャの地名を俺はおかげで知った。

 「あなたがたが取材する予定の市内のピレウス港にもまだ1300人が残っています。なにしろ私たちのギリシャ全体の約50のキャンプに5万5千を超える難民の方々がいるんですから」

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