子どもへの愛情を口にしながら、わが子を殺す親たち
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月13日 6時21分
二〇〇四年十月に理玖君の母親が家出をして間もなく、部屋の電気、ガス、水道は料金未払いで止められてしまう。幸裕(筆者注:理玖くんの父親)の仕事は運送会社のドライバー。出勤の際はかならず理玖君を真っ暗な和室に閉じ込め、引き戸に粘着テープで目張りをして外に出られないようにしていた。食事は決まって、近所のコンビニで買ったパンやおにぎりだった。(中略)お腹がすいたり、喉が渇いたりした時は、引き戸に向かって「パパ、パパ......」とか細い声でつぶやき、稀に幸裕がふらっと帰ってくれば、嬉しそうに声を上げて歩み寄って行った。 だが、幸裕は幼い理玖君の存在を煩わしく思い、外に恋人をつくるとアパートにはほとんど寄りつかなくなった。(中略)そして「監禁生活」が二年三カ月つづいた二〇〇七年の一月、理玖君はついに絶命する。吐息が白くなるほど寒い部屋で、オムツとたった一枚のTシャツを身に着けた姿でうずくまるようにして息絶えたのである。(13ページより)
このようなことになっても、後日帰宅した幸裕は理玖くんの死を知りながら警察に通報することもなく、遺体を放置したまま逃走。さらには理玖くんの死を隠して児童手当などを不正受給したというのだ。しかし、そうした事実以上に問題視されるべきは、著者が拘置所で面会した際の幸裕の言動だ。
「俺は理玖を殺してなんかいないっすよ。それに、あいつの責任はどうなんすか!」 これまでの公判から判断するに、あいつとは幸裕の妻、愛美佳(あみか、仮名)にちがいなかった。(中略)幸裕はいら立ち、アトピー性皮膚炎の腕や首をかきむしってつづけた。「俺、二年以上一人で理玖を育てたんですよ。メシもあげた、オムツも交換した、体もふいてた、遊ばせてだっていた。やることやってたんす。なのに、なんで殺人とか言われて捕まんなきゃなんねえんすか。おかしいっすよね!」(16ページより)
つまり彼は、自分が「やることやってた」と信じて疑わないのである。そして、自分が不当な扱いを受けていると本気で思っている。常人にはとうてい理解できない感覚だが、それが彼にとっての「普通」なのだ。そして同じことは、他の2事件の犯人にもいえる。
【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい
「下田市嬰児連続殺害事件」の犯人である高野愛(いつみ)の、裁判員裁判での様子についてこのような記述がある。
彼女は、若くしてすでに十一歳の長女を含め三人の子供を育てている母親だったが、その受け答えはあまりにたどたどしかった。 たとえば、事件についてどう考えているかと訊かれた時の返答が次だ。「こんな事件起きちゃって、子供たちにごめんって思ってるから、そう言ってみたいです」 また、なぜ赤ん坊を殺害したのかと問われてこう答えている。「なんとかなるって思っちゃってたんですけど、そうならなかったから、困って......でも、私が悪いって思います」 彼女は県立高校の普通科に通う学力はあったし、ジョナサン(筆者注:愛の勤務先)でも愛嬌をふりまきながら十年間ちゃんと勤めている。知的レベルが著しく低いわけでもないのに、実際に彼女の口から出てくるのは、小学校低学年の子の下手な言い訳のような返答ばかりだった。(98ページより)
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