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子どもへの愛情を口にしながら、わが子を殺す親たち

ニューズウィーク日本版 / 2016年9月13日 6時21分

 そして 「足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件」の犯人である皆川忍と妻の朋美にも、似たような側面がある。

 裁判官や検察官は、たびたび二人に対して玲空斗君への虐待の実態や死体を遺棄した場所などについて尋ねた。忍は玲花ちゃんへの虐待については一部認めたものの、玲空斗君に対しては「してません」の一点張。質問にはほとんど一言でしか答えず、都合の悪いところは黙るかごまかすかした。(中略)――玲花ちゃんをリードでつなぐというのはやり過ぎだと考えなかった?「考えました。けど、まぁわかってくれるのかなという気持ち」(中略) 朋美に関しては、責任逃れの言葉だけが目立った。裁判は途中から分離されることになるのだが、朋美はそれを機に、虐待は忍が勝手に行ったと主張したのである。自分は妊婦だったし、精神的な病気に苦しんでいたため、何もできることはなかった、と。(186~187ページより)



 このように彼らには、人間として決定的に欠けている部分があるのだ。欠けた部分は誰にだってあるけれども、こうした欠け方はやはり異常だ。そしてその異常さに気づかないまま、彼らはそこを言い訳や自己憐憫などで埋めようとする。そうすればなんとかなると、本気で思っている。

 もちろん事件の細部の描写も強烈なのだが、私がいちばん恐怖を感じたのはここだ。こういう人たちが、普通に生活しているという現実を恐ろしいと感じたのだ。

 読み進めていくとわかるが、彼らはそれぞれ、複雑な家庭環境などの問題を抱えて生きてきた人たちだ。だからといってなにが許されるはずもないのだが、そのようにブチギレた感覚で(無意識のうちに)自分を武装しない限り、生きてこられなかったのかもしれない。

 そして必然的に実感せざるを得なかったのは、こうした人たちは、まだまだ世の中にたくさん存在するのだろうなということだ。だから虐待も増加の一途をたどっているのだろうし、それは社会の歪み以外のなにものでもない。

 そんなことをヒリヒリと感じさせてくれるからこそ、本書はどよんとしたものを心のなかに残す。だから決して楽に読み進められる内容ではないし、「とてもじゃないけど読めない」と抵抗感を示す人もきっといるだろう。しかし個人的には、これは1人でも多くの人が読むべき作品だと感じた。多くの人は児童虐待と無縁の生活を送っているだろうが、だからといって他人事とはいい切れないところまで、現在の日本は来ているのだから。


『「鬼畜」の家――わが子を殺す親たち』
 石井光太 著
 新潮社


[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。


印南敦史(作家、書評家)


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