シリアという地獄のなかの希望:市民救助隊「ホワイト・ヘルメット」の勇気
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月13日 18時1分
映画の見せ場は、戦場でかすかな希望が垣間見える場面だ。空爆で破壊された瓦礫の中から生後2週間の赤ちゃんが奇跡的に救い出された瞬間や、武器よりも命を救う担架を選んだホワイト・ヘルメットの隊員たちの力強い言葉の数々は、見る者の心を揺さぶる。「武器をとるより人道支援に携わる方がより良い道だと思った」と映画に登場するモハメド・ファラーは言った。「命を奪うよりも、救いたい」
こうしたメッセージがアインジーデルとナタセガラを映画の製作へと駆り立てた。だが同時に、支払う代償も大きかった。70時間以上かけて撮影した映像のうち、ほとんどが直視できないほど生々しい場面だったため、編集ではどこを残すかの判断にとことん悩んだ。「映画に撮ったのは、隊員たちの日常の2%にも満たないと思う。それでも映っているのは目を覆いたくなる場面ばかりで、視聴者は見るに耐えないと思った」とナタセガラは語る。「あれを見ていなければ、彼らがどんな状況下に置かれているか、そして戦争が終わってから彼らがどうなるかを、想像し始めることすらできなかった」
国際社会の助けを待つ
製作過程を通じて、2人は必然的にホワイト・ヘルメットの隊員たちの人柄に惹きこまれた。「映画の編集作業に関わった人やプロジェクト関係者のだれもが心を動かされ、彼らの姿を胸に刻んだ。だからこそ、みんなが心を一つにして、彼らの話を世界中に伝えるという決意を新たにできたのだと思う」
シリア内戦の終わりが見えないなか、アインジーデルとナタセガラは、シリアで何が起きているのかが分からない一般の人々にも理解できるような作品に仕上げた。公平な立場を保って全体にバランスをとることにも成功した。「作り手として中立性を保つのは、並大抵の努力ではなかった」とナタセガラは言った。「映画が訴えるメッセージは、一人ひとりに映像から感じ取ってもらえればいい」
ホワイト・ヘルメットは歴史に名を刻み、本作のようなドキュメンタリー映画によって、シリア内戦が終わった後も永く人々の記憶に残るだろう。絶えず爆撃に見舞われ、瓦礫の中に広がる恐怖の光景に日々さらされようと、隊員たちはずっと信じ続けている。国際社会がシリアの人々を救うために立ち上がり、この内戦を解決に導いてくれることを。
ジャック・ムーア
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