対中強硬派のベトナムがASEAN諸国を結束させられない理由
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月16日 18時50分
メコン川流域にも紛争
中国と一部のASEAN諸国の間でとりわけ大きな火種になってきたのが、中国がメコン川流域で進める水力発電ダムの建設と水源の管理をめぐる問題だ。最大の関心を抱いているのはメコン川の下流に位置するベトナム。メコンデルタはベトナムで最も稲作に適した土地であり、米を育てるためにはメコン川上流からの水源が一番の頼りだ。ダムの建設によって下流部への水がせき止められれば、コメの生産に影響が出る恐れがあり、死活問題だ。
【参考記事】何もなかった建設予定地、中国-ラオス鉄道が描く不透明な未来
1986年に中国政府が国内のメコン川流域でマンワン・ダムの建設を始めて以来、ベトナム政府は中国に対してダム建設がメコンデルタへの水流をせき止める危険性があると再三訴えてきたが、状況は何も改善していない。中国政府はマンワン・ダムが遠く離れた南方のメコンデルタに影響を及ぼすはずはないとしてベトナムの主張を拒み、中国国内にあるメコン川の水源は川全体を流れる水の16%にしか満たないと反論した。
ベトナムは世界中の国々から支持を取り付けようと奔走し、とりわけアメリカの後ろ盾を求めた。米政府はベトナムの期待に応え、一貫して中国のダム建設プロジェクトを公の場で非難してきた。
アメリカは中国に対抗できるか
当時の米国務長官だったヒラリー・クリントンは2012年7月、アメリカの政府高官としてベトナムとカンボジア、ラオスへの歴訪を実現し、バラク・オバマ政権の「アジア重視」戦略を見せつけた。彼女はラオスを訪問中、タイの会社が受注しラオスで建設中だったサヤブリ・ダムについて、沿岸住民の暮らしや環境への悪影響が懸念されるため、計画を一時凍結するよう主張した。それは中国以外のメコン川下流域の本流では初めてのダム建設プロジェクトで、ベトナムやカンボジアが反対していた。
近年アメリカは、メコン川流域国を囲い込むため様々な布石を打ってきた。アメリカが主導して立ち上げた「メコン川下流域イニシアティブ」には、カンボジアとラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの5か国が参加。2010年には環境保全や教育振興などを目的に、流域4カ国で構成する「メコン川委員会」と「米ミシシッピ川管理委員会」がパートナーシップ協定を結んだ。「米・ラオス二国間対話」も今年で7回目を迎えた。最たる例はベトナムだ。今ではアメリカ海軍の艦船が毎年ベトナムに寄港し、合同の軍事演習も行っている。
つまりアジアにおける覇権と資源をめぐる争いは、南シナ海だけで繰り広げられているわけではない。メコン川流域国でも米中の主導権争いがますますエスカレートしているのだ。戦略的には中国が先行しており、外交や軍事面でアメリカのより積極的な動きが求められる。
Oliver Hensengerth, Lecturer in Politics, Northumbria University, Newcastle
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
オリバー・ヘンセンガース(英ノーサンブリア大学政治学講師)
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