シンガポール「王朝」のお家騒動で一枚岩にひび
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月20日 16時0分
【参考記事】シンガポール「創業者」、リー・クワンユー氏の功罪
途中14年間は親族以外が首相を務めたが、2004年からは長男リー・シェンロンが首相を務める。再度のリー一族による国家運営は「リー王朝支配の復活」と映り、厳しい言論統制、実質的な一党支配、麻薬犯罪から道交法、立ち食いまであらゆる違反行為に厳罰主義で臨む国家体制ともあいまって「明るい北朝鮮」と自嘲気味に表現され続けているのだ。
シンガポール国内でリー一族について「世襲」「ネポティズム(縁故主義)」「ビジネスや海外資産の独占」など機微に触れる発言や報道をすれば即座に発行禁止、損害賠償、国外退去となる。「国境なき記者団」による2016年度の「各国報道の自由度ランキング」でもシンガポールは180カ国中、154位であることがそれを裏付けている(ちなみに北朝鮮は179位)。
ヒートアップする兄妹の言い争い
現首相とその妹による言い争いのそもそもの発端は今年3月のリー・クアンユーの一周忌に際し兄が大々的な追悼行事を計画したことに、妹が「父の神格化を図るものだ」と反発、父の威光・権威を借りて自らの地位を確固たるものにしようとしていると批判したことあるようだ。
その後もリー・ウェイリンは「父が首相、上級相の時代のシンガポールは現在の政府よりもっとフランクで国民に対して率直だった」などと兄の政府が国民の思いに寄り添っていない、と正面切っての政権批判を展開している。さすがに首相の妹であり、建国の父の娘だけに当局もリー・ウェイリンの口を封じる強硬手段は控えている。
ただ、リー・シェンロンも黙っているだけでは不利になると思ったのか「権力継承確立のために私が権力を乱用したとの妹の主張に驚いている。国民の意を汲んで父の一周忌の行事をどうするか、内閣で承認したものであって世襲の意図などない」としたうえで「我々の社会の根本的な価値は実力主義であり、王朝を私が築こうとしているという指摘は全く的外れである」と反論、ネットを通しての兄妹の争いはますますヒートアップしている。
社会変革の萌芽となりえるか
こうした論争の詳しいことをシンガポールの官製メディアは詳しくは伝えていないが、当局の制限、検閲があるとはいえ高度のネット社会でもあるシンガポールだけに国民の多くがこの兄妹の言い争いを興味深く見守っている。もっとも当局にどこで個人情報が探られるか疑心暗鬼なため、書き込みへのコメントは、2人の父リー・クアンユーの功績を評価するものが多く、賛否を明確に示すことは避けているものが目立つ。
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