安楽死が合法的でなければ、私はとうに自殺していた
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月23日 15時53分
<パラリンピックでメダルを取った後、「痛みに耐えられないので安楽死する」と誤って伝えられたフェルフールトが本当に言いたかったのは、ベストを尽くして最後まで生き抜こうということ、彼女にとっての安楽死の準備はそのためにあるということだ>(写真右は、100メートル(車いすT52)で銅メダルに輝いたフェルフールト)
リオデジャネイロ・パラリンピックの陸上女子400メートル(車いすT52)で前回のロンドン大会に続きメダルを獲得したベルギーのマリーケ・フェルフールト(37)は、直後の記者会見でこう打ち明けた。もし合法的な安楽死の手続きを済ませていなければ、自分はとうに自殺を図っていただろう。
フェルフールトが大会後に安楽死するつもりだ、と誤って伝えたメディアの報道を否定するために開いた会見で、彼女はこう言った。
(安楽死のことを考えるより)今は仏教と禅の教えを学ぶことで忙しい。安楽死を認める書類がなければ、私はたぶん自殺をしていただろう。ブラジルをはじめ他の国々でも、安楽死について議論ができるようになってほしい。そうすれば人々はより長く生きられる。署名をしたら2週間後に死ななければいけない、というわけではない。私は2008年に安楽死に同意する署名をした。そして2016年の今、こうして銀メダルを獲った。
彼女の一連の発言は、「人は誰かに殺してもらう権利を持つべきか」という、安楽死の倫理や法律をめぐる興味深い論争を思い起こさせる。人が安楽死を選択する理由について、社会の偏見を払拭する一助にもなる。
【参考記事】ベルギー「子供の安楽死」合法化のジレンマ
合法化の是非は別として(フェルフールトの出身国ベルギーでは2002年に合法化された)、自発的な安楽死の倫理に関する初期の議論では、次の2つの問いが繰り返されてきた。1つ目は、命を積極的に短くしたり終わらせたりすることが、本当に患者の利益になるかということ。もう1つは、生死の決断について患者の意思をどこまで尊重するべきかということ。
反対派は、障害や痛みや苦しみの程度に関わらず、人の命には尊い価値があり、神聖な命を他者が犯すべきではないと主張する。つまり意図的に患者を殺すのは決して正当化できないという立場だ。
そうした意見に対して賛成派は、命の価値観を患者に押しつけるのは不当だと、真っ向から反論する。むしろ賛成派は患者の生活の質を向上を重視し、生き続ける価値があるかどうかを見極め、死ぬ時期や死に方を患者自身が選べるよう支援する構えだ。
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