安楽死が合法的でなければ、私はとうに自殺していた
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月23日 15時53分
合理的な決断
反対派が論点として挙げるのは、果たして安楽死を希望する患者に、合理的な選択をする能力があるのかどうかという問いだ。彼らに言わせれば、患者は痛みや精神的苦痛や不安、激しい苦悩のせいで、合理的な判断能力を失っている。安楽死を希望する患者は、目の前に効果的な治療法があっても気が付かない可能性もあるという。そうした状況では患者は真に自主的で合理的な決断をする能力を欠いているため、安楽死は正当化できないという考え方だ。
この見方が当てはまるケースもなくはない。患者が回復不能な終末期にある、もしくは難治性で耐えがたい苦痛を伴う場合などがそうだ。その点、筋肉が衰える進行性の脊髄の難病を患うフェルフールトが行った安楽死の手続きは、患者の判断能力に疑問を呈する反対派の見方が的外れである可能性を示す好例だ。2008年に安楽死に同意する署名をした彼女は、その手続きを非常に肯定的に捉えているようだ。
フェルフールトには合理的な判断能力があるように見えるし、彼女の場合、必要な書類を揃えるまでの道のりも長かった。彼女は先の会見で手続きについてこう言った。
必要な書類を揃えるのは本当に大変だった。そのために色々な医師に会って、進行性の病気を患っている事実を確認してもらわなければならない。3人の医師の判断を経て署名をもらったうえ、安楽死という選択が本当に自分の望む結果なのかを確認してもらうため、精神科医とも話す必要がある。
重要なのは、安楽死を望む患者の願望に自主性と一定の判断能力が備わっているだけでなく、その判断が継続的もしくは恒久的な観点に基づいていることだ。つまり、一過性ではなく、幾度となく熟考を重ねたうえでの決断でなければならない。フェルフールトの決断は、その条件に当てはまる。
自分で決める
フェルフールトが将来の安楽死を見据えて書類を整えた理由や状況も、十分考慮するべきだ。彼女は治療不可能で進行性の難病が引き起こす激痛に苦しんでいる。今後も病状は耐えられないほど進行し、死にたいと思ったときには既に自分一人では手を下せなくなっている可能性が高いこと。安楽死を望む人の多くが、同じような状況に置かれている。
彼女にとっての安楽死は、生きるのをやめるという意味ではない。むしろ自分の力で自殺したくなるのを止める手段だ。もちろん安楽死を止めようと思えば書類はいつでも無効にできる。
もちろんこれは安楽死や自殺を勧めたり提案するものではない。だが、フェルフールトの状況は、どれだけ人生を最大限に生き成功を収めた人であっても、人生の最期を自らコントロールしたいというもっともな願望から自発的に安楽死を選ぶこともあることを示している。
Anthony Wrigley, Senior Lecturer in Ethics, Keele University
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
アンソニー・リグレー(英キール大学上級講師、専門は倫理学)
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