戦略なき日本の「お粗末」広報外交
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月26日 16時22分
会議の内容をよく知るある日本の外交官は、「ダチョウ倶楽部の上島状態だった」と振り返る。事前に周辺海洋諸国と南シナ海問題を取り上げることについて確認していたが、全体会議になると手を挙げたのは日本くらいしかいなかったという意味だ。こういった経緯もあり、続いて中国・杭州で開催されたG20で日本の南シナ海についての立場はトーンダウンした。
【参考記事】ルポ:南シナ海の島に上陸したフィリピンの愛国青年たち
実際、日本の東南アジアでの広報活動は順調満帆ではない。判決を受け、外務省は今夏シンガポールで南シナ海をテーマにしたシンポジウムを開こうとしていたが、実現に至らなかった。そのイベントはこの地域で対中の警戒感を醸成することが目的だったという。フィリピンやインドネシアなどの国では現地の学者に頼み込むなどして同様のシンポジウムを開くのは容易だったが、シンガポールでは話が違った。
それもそのはずだ。国際政治のシンポジウムやセミナーが毎日のように開かれるシンガポールは、外交官や学者が頻繁に訪れるアジアで屈指の情報交換の場になっている。中心的役割を果たす拠点――S.ラジャラトナム国際研究院(RSIS)、東南アジア研究所(ISEAS)やリー・クアンユー公共政策大学院(LKYSPP)など――には数多くの中国人研究者が在籍している。
筆者は2014年にLKYSPPで研究職について以降、日本の政策決定者や学者を招待し、講演を行ってもらえるよう努力した。「日本の存在感がなくなってきている」(日本の元駐シンガポール大使)なかで、日本の声を届けたいと思ったからだ。提案の結果、中尾武彦ADB(アジア開発銀行)総裁や根本洋一 AMRO(ASEAN+3マクロ経済調査事務局)所長(当時)らに来校していただくことができた。
反日デモの最中に「マリモ」からは改善しているが
それ以前、中国メディアのスタッフとして北京で働いていた時代を振り返ってみても、日本大使館の広報方針に疑問を感じることが多かった。2011 年、当時の前原外務大臣がインタビューに応じたメディアは詭弁でナショナリズムを煽ることで有名な、あの『環球時報』だった。その頃、文化広報担当の公使になぜ『環球時報』だったのかと問うと、「それは簡単。『環球時報』は国際問題を専門に扱う新聞だから」と答えられ、唖然とした。
2009年には、すでにオバマ大統領がリベラル系総合誌『南方週末』の独占インタビューに応じている。アメリカは、中国で知識人層に支持されるメディアに積極的に出ていくことの意義を熟知し、独自のコネクションを築いていた。日本は、前出の大臣インタビューからしばらくしてようやく、メディアを選別して露出していくことの重要性に気づき、広報方針をシフトさせていった。
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