トルコはなぜシリアに越境攻撃したのか
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月26日 17時0分
トルコとロシアの関係改善で変わる風向き
ロシア軍機撃墜事件で関係が悪化していたトルコとロシアであったが、2016年6月29日に関係正常化を発表する。8月9日にはレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とウラジミール・プーチン大統領の会談が実現した。トルコにとって、ロシアとの関係改善は、シリアで「劣勢」を強いられていた立場を打破するきっかけとなった。8月24日からの越境攻撃はまさにその証左であった。
越境攻撃におけるトルコ軍の目的は、ISの壊滅およびクルド勢力をユーフラテス川西岸から撤退させる、という2点であった。もちろん、ロシアとの関係改善以外に、トルコがISとクルド勢力に攻勢を強める理由はあった。8月21日にはトルコのガズィアンテプでISによると思われる自爆テロが発生し、54名が死亡した。一方、クルド勢力もシリアで攻勢を強め、8月13日にマンビジュをISから奪還していた。しかし、ISのトルコ国内でのテロとクルド勢力の伸張は今に始まった話ではない。そのように考えると、やはりロシアとの関係改善がトルコの越境攻撃の決定を後押ししたと言えるだろう。
また、トルコで7月15日に起きたクーデタ未遂事件は外交には直接的な影響は及ぼしていないと考えられる。たしかに、トルコ政府がクーデタ事件の首謀者と名指しで批判しているフェトフッラー・ギュレン師の引渡しをめぐってアメリカとの関係が緊張したが、そのことがトルコ軍のシリア越境攻撃の直接的な要因とはなっていない。
トルコ軍のシリア越境攻撃のまさにその日、エルドアン大統領、ビナリ・ユルドゥルム首相とアメリカのジョー・バイデン副大統領が会談している。この会談で、ギュレン師引渡しをめぐる溝は埋まらなかったが、その一方で、シリアへの越境攻撃に関してはトルコとアメリカで一定の合意があったと見られる。ロシアとの関係改善を盾にトルコ側がアメリカを押し切ったという方が正確なのかもしれない。クルド勢力に対する見解は異なるが、アメリカにとっても対ISへのトルコ軍の本格的な参戦は歓迎であった。
トルコの越境攻撃に関しては、ロシア、そしてアメリカともにこれまでのところ静観している。ISの壊滅に関しては、利害が一致しており、各国間の足並みは揃っている。クルド勢力に対して、ロシア、アメリカともに協力関係は依然として維持している。ただし、両国ともトルコとの関係を考慮し、クルド勢力のユーフラテス川西部への侵攻は支持しない立場を採っている。
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