ボツワナ独立50年──アフリカ型成功モデルの終焉?
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月29日 21時4分
ところがセレツェは、人種による隔たりのない民主主義の下、国家の安全と繁栄を実現してみせた。まだ若く力もない国が掲げるには荷が重すぎる理想かとも思われた。だがすぐに、理想こそがこの国にとって最も価値ある資産であることが判明した。
【参考記事】中国の植民地主義を黙認した日本の失点
高潔で誠実な人柄が認められ、セレツェは多国間や二国間の外交で成功を収めた。次第にボツワナは、援助する価値がある国とみなされるようになった。南部アフリカ地域の共同開発を目指した広域連携のまとめ役まで買って出るまでになった。
成功に導いたセレツェの戦略
セレツェの論理はシンプルだった。アパルトヘイトは、南部アフリカ地域では多民族主義は成り立たないという前提に基づいている。平和的にこれと対抗するには、ボツワナが多民族主義の成功例を提示する必要がある。援助を受ければ受けるほど、成功に邁進した。成功すればするほど、アパルトヘイトのイデオロギーは弱体化した。
そうした姿勢に最も感銘を受けたのがアメリカだ。外交官や政治家、学者、反アパルトヘイトの活動家らを大いに刺激した。その後の十年で、ボツワナは国民1人当たりで最大の援助をアメリカから受けるようになった。
指導力と政策立案能力も成功の重要な要素だった。最たる例が、同国でのダイヤモンド採掘ブームを最大限に活用したボツワナ政府マネジメント能力だ。
ボツワナの躍進は誰の目にも明らかだったが、安全保障は何十年も得られなかった。同国は反アパルトヘイト闘争の拠点にしないことを条件に難民を受け入れていた。だが1977年にボツワナ防衛軍を設立するまでは、南アフリカや内戦が勃発した隣国ローデシアから逃れた活動家を追ってくる両国から武力攻撃を受けても、反撃さえできなかった。
欧米から寄せられる深い同情だけが、国家防衛の頼みの綱だった。ボツワナに対する挑発行為には、国連加盟国のほとんどが結束して反対してくれると信じることができた。
ボツワナは、かつては国家存続にとって脅威だった周辺国を追い越す勢いになった。
1980年に死去したセレツェは、多民族主義の下で繁栄を築くことは可能だと証明した。
現在のボツワナ
少数白人支配がおおむね過去となった今、ボツワナはかつての特殊性を失った。「成功」に疑問符を付けたくなる理由もある。ボツワナ民主党は独立以来政権を維持し続け、セレツェの息子であるイアン・カーマ大統領は独裁色を強めている。
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