前代未聞のトランプ節税問題と奇妙な擁護論 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月4日 12時20分
<NYタイムズのスクープから、トランプが95年の巨額損失の申告以降、長年に渡って連邦所得税を払っていなかった問題が暴露された。しかし支持者の奇妙な擁護論によって、今のところトランプは大きなダメージを被っていない>
先月26日に行われた大統領選の第1回テレビ討論で、最も激しいやり取りになったのは、「トランプが過去の確定申告書を公開していない」という事実に関する部分でした。
まず、トランプは「自分の過去の確定申告に対しては、国税(IRS=内国歳入庁)が監査に入っている」ので、その監査が終わらないと確定しないし、公開もできないと弁解しました。要するに自分の顧問弁護士が「公開したくても認めてくれない」というのです。
しかし、その舌の根も乾かぬうちに、「でもヒラリーが自宅のサーバから消去した3万3000通の電子メールを公開したら、自分も確定申告書を公開してもいい」と、例によって「お得意のディール(取引)」を持ちかけたりもしていました。
【参考記事】トランプの新政策が物語る「大衆の味方」の大嘘
これに対してヒラリーは「ドナルド(トランプ)が確定申告書を見せたがらないのには色々な理由が考えられる」として、列挙を始めました。「まず第1に、確定申告書を公開すると、自分が全然お金持ちではないことがバレて格好悪いという可能性。それから第2に、これまで吹聴してきたほどチャリティーをやっていないことがバレる可能性」という具合に、かなりジョークを交えての追及でした。
そして3番目にやっと本題に入り、「もしかしたら欧州の銀行などに大借金があるのがバレるとか、もしかしたら確定申告の結果、まったく国税を収めていないことが明らかになるかもしれない」と、追及したのでした。ここでトランプは「悪童っぽいアドリブ」を利かせて、「そうそう、その点で俺様は賢いのさ」と、まるで自分が税金を納めていないことが「賢い」とでも言いたげな茶々を入れたのでした。
誰もが、ヒラリーが「一本を取り」、トランプは「自滅した」と思った瞬間でした。そしてこの応酬には、その後「証拠」が出てきたのです。
1日付けのニューヨーク・タイムズは、1995年度のトランプの確定申告書を入手したとして、その内容を公開しました。それによると、95年には事業の失敗によって、トランプ夫妻の「確定申告」では、トータルの収入が9億1600万ドル(現在の為替換算で約925億円)のマイナスだったとしているのです。
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