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ロシア・シリア軍の「蛮行」、アメリカの「奇行」

ニューズウィーク日本版 / 2016年10月5日 17時20分

 WHO(世界保健機構)の発表(9月30日)によると、アレッポ市東部では停戦が崩壊した9月19日以降、338人(うち106人が児童)が死亡、846人(うち261人が児童)が負傷しており、同地の被害は筆舌に尽くしがたい。本来であれば、こうした人道危機は、欧米諸国の世論を刺激し、各国政府に何らかの行動を促していたはずである。だが、米国も、EU諸国、サウジアラビア、トルコ、カタールも、実効的な打開策を打とうはしなかった。

 とりわけ、トルコは、以前であれば、武器、資金、兵力の増強を画策し、「反体制派」の反転攻勢を後押した。だが、アレッポ県北部からYPGとイスラーム国を掃討するための進攻作戦を黙認することをロシアに暗に求めるかのように、アレッポ市東部の戦況への不関与を貫いた。

【参考記事】トルコのクーデータ未遂事件後、「シリア内戦」の潮目が変わった

 こうしたなか、米国に残された抵抗手段は、ロシア・シリア両軍が交戦する「反体制派」の活動を阻害しないことぐらいだった。そのためもっとも効率的な策が、停戦の破綻を受け入れ、「穏健な反体制派」と「テロ組織」の峻別という課題を放棄することだった。



「穏健な反体制派」と「テロ組織」がこれまで以上に混然一体に

 米国が停戦プロセスに見切りをつけたことは、イスラーム国とともに「テロとの戦い」の主要な標的として位置づけられてきたシャーム・ファトフ戦線にとって歓迎すべきものだったに違いない。同戦線幹部の一人はドイツ誌『フォーカス』(9月27日付)に対して、米国から対戦車ミサイルの直接供与を受けたと主張、米国との「蜜月」に期待を寄せた。また9月28日には、欧米諸国でのイメージ改善を狙うかのように声明を出し、同戦線に拉致されていたと考えられていたドイツ人女性ジャーナリストを「少数グループ」から救出・解放したと発表した。

 しかし、ロシアやシリア政府の喧伝とは裏腹に、これをもって米国と「テロ組織」が共闘態勢に入った(ないしは共闘の事実が公然化した)とは言い切れない。

 確かに、ジョン・カービー米国務省報道官は9月29日、「過激派はシリア国内の真空に乗じて、作戦を拡大し...ロシアは遺体袋に兵士を入れて帰国させ...、これまで以上に多くのロシアの航空機が打ち落とされるだろう」と発言、ロシアやシリア政府から、米国が「テロ組織」を支援していることの証左だとの非難を浴びた。だが、米国は同時に、「反体制派」のなかに身を隠す「テロ組織」への「テロとの戦い」も強化した。

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