ロシア・シリア軍の「蛮行」、アメリカの「奇行」
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月5日 17時20分
米国は9月16日、アル=カーイダに忠誠を誓い、イスラーム国ともつながりがあるとされるジュンド・アクサー機構をSDGT(特別指定国際テロリスト)に新たに指定した。また、10月3日には、イドリブ県西部で空爆を実施し、シャーム・ファトフ戦線の有力幹部アブー・ファラジュ・ミスリー(エジプト人)を殺害した。
米国がこうした行動で何を意図しているのかは理解に苦しむ。だが、その結果として「穏健な反体制派」と「テロ組織」がこれまで以上に混然一体と化したという事実は看過すべきでない。ジュンド・アクサー機構は、アレッポ市包囲戦が激化した8月末、ハマー県北部の支配地域を拡大する作戦を開始したが、実はこの作戦で共闘した最有力組織の一つが、米国(CIA)の教練を受けたイッザ軍だった。つまり、米国はジュンド・アクサー機構をSDGTに指定することで、自らが支援してきた「穏健な反体制派」を「テロ組織」の共闘者にしてしまったのである。
オバマ政権の対シリア政策の特徴
8年におよぶオバマ政権の対シリア政策は多重基準を特徴としていたと約言できる。「アラブの春」の追い風のなかで始められた干渉政策は、当初は「人道」を根拠としていた。だが、2013年の化学兵器使用事件を契機に「大量破壊兵器拡散防止」が目的となり、2014年のイスラーム国台頭以降は「テロとの戦い」が主軸となった。この変遷の過程で、体制転換後の政権の受け皿となるはずだった「反体制派」は、イスラーム国と戦う武装集団を指す言葉となった。しかし、この「反体制派」が、「独裁」を打倒することも、イスラーム国を殲滅することもなく、「テロ組織」と「穏健な反体制派」の寄り合い所帯であることはすでに述べた通りだ。
オバマ政権の対シリア政策は迷走していたと言ってしまえばそれまでだが、多重基準を駆使してシリアの混乱を持続させ、ロシアやイランと駆け引きを続けるのが目的だったとすれば、それはプラグマティックだと評価できるかもしれない。ただし、これはあくまでも米国の立場からの評価であって、シリアの視点に立てば、米国が干渉を続ける限り、「人道」や「テロとの戦い」が結実しないまま、諸外国の主戦場として弄ばれ続けることを意味する。
[筆者]
青山弘之
東京外国語大学教授。1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院修了。1995〜97年、99〜2001年までシリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所(IFPO、旧IFEAD)に所属。JETROアジア経済研究所研究員(1997〜2008年)を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。編著書に『混迷するシリア:歴史と政治構造から読み解く』(岩波書店、2012年)、『「アラブの心臓」に何が起きているのか:現代中東の実像』(岩波書店、2014年)などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」を運営。青山弘之ホームページ
青山弘之(東京外国語大学教授)
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