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ノーベル平和賞以上の価値があるコンゴ人のデニ・ムクウェゲ医師 ―性的テロリズムの影響力とコンゴ東部の実態―

ニューズウィーク日本版 / 2016年10月18日 17時10分

 性的テロリズムが「戦争の武器」として使われるのは、それが有効でかつ安価な武器だからであり、若者、特に失業中の若者を洗脳すれば、即使用できる。その上、性的テロリズムは1人に対して使われる武器だが、それは被害者の周辺で水平と垂直の方向に打撃を与える強力で影響力のある武器でもある。まず水平(家族、コミュニティー)に関して、サバイバーの女性の夫や子供たちなど家族全員にトラウマが広がった後に、恐怖心がコミュニティー全体と社会に拡散し、最終的に社会が破壊される。さらに、垂直方向(次世代)にも影響が及ぶが、それはレイプのサバイバーから生まれた子どもたちは望まれないまま生まれたために人間関係の問題に、そして子どもたちの父親がわからないという家系の問題に直面する。その子どもたちはエイズにかかっている可能性があるため、サバイバーの子孫たちを含む家族全体が破壊される。身体的にも精神的にも受けた打撃は殺害と同じように深刻であることがわかるだろう。

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(注1)S/2015/203, 23 March 2015



 その性的テロリズムは、あらゆる方法で家族やコミュニティーを破壊する力を有する。その方法とは、例えば、夫や子どもたちの前で犯される集団レイプから、女性の性器にさまざまなモノが挿入されるものなど。ある女性は7人の武装勢力要員にレイプされた際に、7人目の男性がその女性の性器に銃をねじこみ発砲した。そのため彼女の性器全体が木端微塵にちぎれ、細かい肉の断片になってしまった。またある時は、熱で溶かしたゴムなどが性器に流し込まれたり、また化学物質を使って性器に大きな穴が開けられ、直陽と性器(膣)、あるいは尿道と性器(膣)がつながって失禁状態を引き起こすケースもある。12カ月の赤ん坊はレイプされた上に、性器だけでなく腹部に至るまで完全に引き裂かれた。

 このような残虐な方法は主に鉱山地域付近の住民に対して使われているが、それはその住民を強制的に追放・移動させて、最終的に国軍や武装グループが鉱山を支配するためである。

 鉱山地域の住民が邪魔であれば、性的テロリズムという方法ではなく、いっそ殺戮した方が簡単ではないかと疑問を抱く人もいるだろう。しかし、ムクウェゲ医師は、加害者にとって性的テロリズムは利点が2点あると言う。

 第1に、時おり例外もあるが、性的テロリズムはその証拠を残すことができず、また他人に見せることができないという点だ。例えば、1000人の市民が殺戮されると、世界中のメディアが現場に飛んで撮影し、その証拠となる死体の場所を尋ねるだろう。後述のように、国連によると、1990年代後半にルワンダ軍とコンゴの反政府勢力が「ジェノサイド」と特徴づけられる罪を犯したために、特にルワンダ政府は批判を浴びた。そのため、そのような目立った方法は使われなくなっている。その代わり、不可視化された、かつより有害な大量殺戮の方法である性的テロリズムが使われているという。もし1000人の女性がレイプされたら、その中の10%しか勇気を持って自分の身に起こった事を話さないだろうが、その際に証拠を安易に見せることはできない。それは、被害を受けた身体の部分が女性としては他人に見せにくい部分であるためだ。

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