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なぜビル・クリントンは優れた為政者と評価されているのか

ニューズウィーク日本版 / 2016年10月20日 11時35分


◇ ◇ ◇

 大統領について研究しているアメリカの政治学者リチャード・コンリーによれば、クリントンの伝記を著すということは「2人の異なる人物の評伝を書くようなものだ」という。

 スキャンダルにまみれた恥辱の大統領という姿は、クリントンという政治家の一面にすぎない。ビル・クリントンという政治家には、ほかにもいくつもの顔が存在するからである。

 たとえば、クリントンは南部アーカンソー州のホープという小さな町の決して裕福ではない家庭から身を起こして政治家を志し、州知事となり、ついには大統領にのし上がった。クリントンにはアメリカン・ドリームを実現させた人物という顔がある。

 レーガン政権以降の共和党の一大攻勢の前に守勢に回る一方であった民主党内の新勢力、ニュー・デモクラットの指導者となり、民主党の軸足を定め直した救世主という顔も忘れてはならない。

 そして何よりも、内政・外交両面で冷戦後に停滞していたアメリカの建て直しに辣腕をふるった優れた指導者という顔がある。これがもっとも重要な顔であることは言うまでもない。



 クリントン政権の後期、アメリカはIT産業を起爆剤とする空前の好況に沸いた。「この好況は永続し、もはや景気後退は生じないのではないか」、アメリカ人の多くがそんな楽観論を抱いたほどの好景気だった。

 思えば、クリントンが大統領に就任した93年当時、アメリカ政府は巨額の累積債務を抱え、日本などとのあいだに貿易赤字も発生しており苦しみ喘いでいた。この疲弊の極みにあったアメリカ経済を僅かな期間で建て直すことに成功したクリントンの手腕を高く評価する声は根強い。

 外交・安全保障分野でも、クリントンは旧ユーゴスラビア、北アイルランド、パレスチナなどで紛争調停の仲介役を積極的に引き受け、欧州やアジア太平洋地域で同盟関係をポスト冷戦期のリアリティに応じて見直すなどの成果をあげた。ポスト冷戦期の国際社会に忍び寄るテロの脅威や、気候変動問題への対策の重要性を早くから認識していた点でも、クリントンには先見の明が備わっていた。

 アーカンソー州リトル・ロックにあるクリントン大統領図書館はアーカンソー川を望む広大な敷地に建てられている。その建物は巨大な長方形であり、あたかも「橋」のような形をしている。

 これは、クリントンが第2次就任演説で用いたスローガン、「21世紀への架け橋」をモチーフとしたものである。

 クリントンは決してスキャンダルを起こしただけの政治家ではなく、内政・外交両面で後世に語り継がれる功績をあげ、アメリカを新世紀へと架橋した優れた為政者であったと認められている。

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