【対談(前編):冷泉彰彦×渡辺由佳里】トランプ現象を煽ったメディアの罪とアメリカの未来
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月24日 15時0分
彼らは、トランプがメキシコとの国境に壁を作ったりはしない、仕事も与えてくれないことは知っているが、いま「いい思い」をしている人々に中指を立てて「ファックユー」と言いたい。そうしたとても原始的な感情に訴えかけている。
【冷泉】まさに「原始的」な感情で、身体的というか、本能的というか......。それだけにトランプのカネとか女性への貪欲さも、コアな支持者からするとむしろバイタリティに見えてしまっている。
数々の暴言、スキャンダルにもかかわらずトランプ人気は衰えない Jonathan Ernst-REUTERS
女性大統領誕生への熱気は?
――ヒラリーが当選すれば初の女性大統領が誕生する。しかし現状ではその熱気はあまり感じられないのでは?
【渡辺】年配の女性たちはヒラリーに共鳴しているが、若い年代の女性は違う。アメリカで女性が参政権を得たのは1920年だが、年配の女性たちは、それ以降も続いた学校や職場での女性差別を経験してきた。それだけにここまで這い上がってきたヒラリーに、自分の姿を重ねてもいる。
しかし(バーニー・)サンダースを支持した若い世代の女性はまったく考え方が違う。彼女たちは、大学までの教育現場で女性差別を感じたことはないし、自分よりも前の世代が頑張ってこの環境を築き上げてきたとは考えていない。ありがたい、とも感じていない。そうした女性の世代間のギャップは、今回取材を通じてひしひしと感じた。
【冷泉】アメリカ社会では、まだまだ企業社会、家庭などで陰湿な形での男尊女卑は残っている。2008年の大統領選(オバマとヒラリーが民主党候補を争った)では、ヒラリーを女性大統領にしたいという盛り上がりもあった。しかし今回は渡辺さんの言う「新しい世代」が有権者として加わり、結果として「初の女性大統領を」という熱気は薄まってしまったのではないか。
【渡辺】民主党予備選を取材する中で、若い男性がヒラリーやヒラリー支持の女性議員に対して非常に差別的な発言をしているのを見聞きした。こうした若年男性層の女性差別的な傾向はネットでも見られたが、今までの選挙では経験したことがない事態だ。同じことをしても、男性議員なら許されるのにヒラリーは許されずに非難される、そういった風潮があったことは事実だ。
<参考記事>「オクトーバー・サプライズ」が大統領選の情勢を一気に変える
「オバマ政権の継承」は信任されるか
――今回の大統領選は「オバマ政治」を継承するヒラリーを信任するか、しないかという選挙でもあったのでは?
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