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ポスト冷戦の民主党を再生させたビル・クリントン

ニューズウィーク日本版 / 2016年10月24日 14時33分

 側近はクリントンを見て言った。「10年前にたった1回会ったきりですか?」

 クリントンは側近の目を見て答えた。「一晩一緒に仕事したんだよ。どうして彼のことを忘れられる?」

 また、クリントンはアーサー・シュレジンジャーといった高名な学者からは強靭なレジリエンスを長所と指摘されてきた。

 彼の人生は公私ともにトラブルの連続だったと言っても過言ではない。貧しかった幼少期、州知事の再選に失敗、88年の民主党全国党大会の演説での大失敗、あるいは92年の民主党予備選挙においてスキャンダルに足をすくわれそうになったとき、政権発足後の弾劾騒動――。

 クリントンは、トラブル発生後は即座にダメージ・コントロールに取り掛かり、いつも短期間で失地を挽回した。

 過ちを犯すことは避けられないとしても、被害の拡大を最小限にとどめ、立ち直る努力をする。そして、どんな困難に直面しても決して人生への情熱を失わないのが、クリントンだった。

 政権初期にクリントンの相談役を務めたデイビッド・ガーゲンは複数の大統領に仕えたが、クリントンのレジリエンスはほかの大統領とは比べようがないほど強靭だったと振り返る。ガーゲンは、この点ではリンカーンに比肩する強さを持った大統領だと評価している。

 彼の政治家としての成功は、ひとえに彼の人格的優越によるところが大きいであろう。



 クリントンは、状況に応じて冷静に戦略を変更しながら、財政均衡、福祉改革、厳格な犯罪対策、北米自由貿易協定、世界貿易機関設立協定など、共和党の主張を部分的に取り込んだ中道的政策を次々と打ち出し、成功を収めた。

 国際政治学者の高坂正堯は、中道的政策はしばしば悪い結果をもたらすと指摘している。中道的な政策はどっちつかずの方策に堕すことが多く、2つの政策の「悪いところ取り」のようになってしまうからである。

 だが、クリントンは中道的政策を取りつつも、大きな成果をあげている。

 これはクリントンが状況を把握する認識力に優れ、2つの異なる政策から正しく取捨選択を行い、力強く行動する決断力に優れていたことの証左にほかならない。高坂は、このような政治術を「技芸」と呼んでいるが、クリントンが技芸に抜きんでた政治家であったことに疑いはないであろう。

 また、外交では冷戦後の地域紛争やテロなど、新しいリアリティの潮流を見極めつつ、柔軟に対処していった。

 クリントンは「封じ込め戦略」のような原理原則に基づいて定式化されたのとは異なる、臨機応変の外交を展開することで、新たな国際社会のリアリティに対応しようと試みたのである。

 この意味でビル・クリントンは透徹した「リアリスト」でもあった。

 反面、クリントンには欠点も多くあり、失策も少なくなかった。

 モニカ・ルインスキーとの一件からうかがわれるように、クリントンの言動はしばしば作為的で誠実さに欠け、失敗の原因を外部に転嫁する傾向があったように感じられる。この点で、クリントンはやはり道義的に率先垂範をなす指導者だったとは言いがたい。 


『ビル・クリントン――停滞するアメリカをいかに建て直したか』
 西川 賢 著
 中公新書



ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


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