【対談(後編):冷泉彰彦×渡辺由佳里】トランプ現象を煽ったメディアの罪とアメリカの未来
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月25日 15時20分
【冷泉】その通りで、やはりメディアの影響は大きい。今回の選挙戦では、特にCNNが露骨だった。感情論、センセーショナリズム中心で、トランプ人気を煽った。政策論争がきちんとされるためには、前提となる知識、前提となる情報が必要だが、それをしっかり解説する責任をメディアは放棄していた。
トランプ現象はアメリカをどう変えるのか
――今回の選挙を象徴した「トランプ現象」は、これからのアメリカの大統領選を変えてしまうのか? また二大政党制は今後機能していくのか?
【冷泉】今年の大統領選でセンセーショナリズムの効果はあらためて証明された。しかし、今後もトランプのような扇動家が次々に登場してアメリカの政治が劣化していくのか、と言う点では、そこまで悲観的には見ていない。「振り子の揺れ戻し」というか、アメリカ社会には回復力があると思う。
二大政党制についても、基本的には「小さな政府か大きな政府か」という議論の対立軸は残るだろう。今回は双方がポピュリズムに流されて、論点がズレてしまった。政治には理念と実務の両方があり、現状の二大政党制にはそれなりの根拠がある。中期的にはトランプ現象は一過性で、有力な次世代が出てくれば共和党もまた復活するだろう。
ただ、若い世代の感覚を活かせるのは、やはり民主党ではないだろうか。輝かしい理念を持ち、筋金入りの中道実務家として働けるような人物は、出てくるとしたら民主党から出てくると思う。
オバマの高い支持率を、ヒラリーは引き継げていない Kevin Lamarque-REUTERS
【渡辺】「振り子の揺り戻し」と回復力について、同感だ。大統領選後に二大政党はどちらも自分たちのアイデンティティについて深く内省することになる。特に共和党は現在「内戦状態」にあると言っていい。強い外交と「小さな政府」を掲げる、かつての共和党に戻りたい人たちと、今回トランプを支援した人たちが、どのように協調して共和党を立て直していくのか、その点は注目される。
一方の民主党は、今回サンダースの登場で相当に左寄りになってしまった。しかしサンダースはまた無所属に戻るので、熱烈な支持者が民主党に残るとは思えない。今後の民主党は、若年層への支持を広げること、そして党上層部の透明化を図っていくことが必要だ。
またネットやソーシャルメディアを使った新しい戦略は、こらからの選挙戦の柱になるだろう。それでも、従来からの「地上戦(選挙ボランティアによる電話や戸別訪問による働きかけ)」はなくならない。今回も激戦州では、有権者登録や事前投票で「地上戦」は重要な役割を果たしている。これはネットではできないことだ。
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