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「退役軍人がデモ」も「愛人に手紙」のように誤読の可能性あり

ニューズウィーク日本版 / 2016年11月1日 11時19分

 この文章は決して間違いではないのだが、多くの誤解を生む種が隠されている。というのも、中国の退役軍人は"みんな"ひどい扱いを受けていると思ってしまいがちだ。ところが実際には引退した軍人はみなそこそこの生活を送っている人が多い。軍人用の住宅購入補助から年金、医療支援と一般の中国人以上の生活水準を保っていると言っても間違いではないだろう。

 ではデモの参加者はいったい......という話になる。実は退役軍人という言葉がくせ者だ。というのも中国では鄧小平以来、軍の定員削減を繰り返している。退役軍人というと、だいたいにおいて兵員削減のあおりを食って軍人をやめさせられた士官を指す。定年した軍人という意味ではないのだ。



 彼らは地方政府や国有企業に配置換えになったり、あるいは一時金をもらって職探しや起業をしたりというセカンドキャリアを送っている。地方政府や大手国有企業に配属されれば一生食いっぱぐれの心配はないし、定年後の待遇も完璧だ。ところが中途半端な国有企業に配属されたが破綻してしまった、一時金をもらったけれど職探しも起業もうまくいかなかった、という人がいる。彼らこそ今回のデモの主役だ。

 実はこうした退役軍人のデモは多発しており、珍しい話ではない。今回は「約1万人が八一大楼を包囲」という"規模と場所"がニュースとなった。退役軍人のデモ自体は日常茶飯事といっても過言ではない。

 これほど大規模なデモが北京市の中枢部で実施できたのは後ろ盾がいたからではないか。退役軍人たちの不満を利用した習近平下ろしの動きではないか。一部ではこうした深読みもあるようだが、状況証拠だけではなんともいえない。というのも中国では軍人、元軍人は尊敬すべき対象である。ましてや元士官という偉い人たちなのだから手に負えない。

改革が生み出す「ソリティア」の達人たち

 いつまでも暴れられては困ると、中国政府は退役軍人にしかるべき処遇を与えるよう地方政府に促している。しかし財源までは出さないので、地方政府は先立つものがございませんとのらりくらりやりすごす。もう何年も同じ状況が繰り返されているのだ。2015年9月3日の大閲兵式で習近平総書記は新たに30万人の兵員削減を発表した。その一部が食い詰め者になることは間違いなく、政府にとっては新たな悩みとなるだろう。兵員削減と近代化は必要な改革だが、その副産物として生じる食い詰め者への対応はうまくいっていない。

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