メディア・ビジネスに注力するアマゾン
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月2日 17時30分
【参考記事】アマゾンが電子書籍とプリント・オン・デマンドをシームレスに
宇宙工学的経営は当分敵なし
アップルの創業者、ジョブズ氏は無配方針を終生貫き、巨大な内部留保を積み上げて、それを経営における自由の原資とした。株主が自分を追放した1985年の屈辱を忘れなかったためか、1セントも渡さない厳しい姿勢をとったが、求道者的独裁者はメディアやファンから支持された。
利益は成長に回すというベゾス氏も基本的には同じだが、アマゾンは貯めずに使う。もちろん、余ったら使うのではなく、計画通りに余らせて投資に回すキャッシュフロー経営を忠実に実行している。ジョブズ氏のような人間的苦悩は微塵も感じさせず、学生時代に目ざしたロケット工学のような精密な計算が前面に出ているので、アナリストも口を挟む余地がない。冒険をしているというドラマ性もなく、メディアからも好かれない。ベゾスの経営が永遠ならば、新世代のテクノクラートによる「工学的計画経済」すら可能になってしまいかねないからだ。これは主流派からすると「反資本主義」に近い。
最近、AWSを率いるアンディ・ジャシーは、「アマゾンは、失敗を怖れる必要のない稀な会社。『まだまだ多くの大失敗に向けて働き続ける』という言い方が気に入っています。」と語っている。Amazon製スマートフォン「Fire Phone」の失敗をEchoの成功に繋げたように、アマゾンは失敗に強いが、これは失敗の可能性を計算し、バックアップ・プランを用意していることで可能になる。
失敗をしたことで成功のヒントを得ることは珍しくないが、アマゾンの場合は、そのことまで計算して計画しているのだ。ビッグデータによって最近ビジネス利用が進展しているAI技術が、そうした計算の精度を高めていることは想像に難くない。アマゾンの「宇宙工学的経営」は容易に真似ができないだろう。アマゾンの場合は、ビジネスモデル、プロセス管理、組織のすべてが工学的につくられているからだ。
※当記事は「EBook2.0 Magazine」からの転載記事です。
鎌田博樹(EBook2.0 Magazine)
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