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黒田日銀の異次元金融緩和は「失敗」したのか

ニューズウィーク日本版 / 2016年11月4日 16時30分

 このNAIRUの値は、労働市場の制度的要因に左右されるため、国ごとに異なるし、同じ国でも時期によって異なる。重要なのは、そのNAIRU値がいくらであるにせよ、その「インフレを加速させない下限」である失業率に到達するためには、0%や1%ではなく、ましてやデフレではなく、少なくとも2%程度のインフレが必要ということである。それは、一般に賃金には名目的な硬直性があるため、ある程度のインフレ率がないと雇用の調整が阻害されるためと考えられる。



顕著な雇用の改善

 要するに、中央銀行が2%程度のインフレ率を目標とするのは、それ自体が望ましいからではなく、それによってより低い失業率とより高い所得が実現できるからである。中央銀行はだからこそ、政策金利の操作や量的緩和のような手段を用いて、目標インフレ率を達成しようと努める。しかし、そこでの政策の目標として本来的に意味があるのは、あくまでも雇用の拡大であり、それを通じて実現される所得の拡大である。インフレ目標の達成とは、そのような意味での完全雇用が達成されたことを示す「目安」にすぎない。

 これは、黒田日銀の異次元金融緩和がその目標を達成しつつあるかの正しい判断は、雇用の改善が続いているのか否か、より具体的には失業率の低下が続いているのかに基づいて行われなければならないことを意味する。いくらインフレ率が高まっても、失業率が低下しているのでなければ、その政策が成功しているとはいえない。逆に、インフレ率が十分に高まっていないとしても、雇用が改善し続けているのであれば、その政策は明らかに成功しているのであり、最終的な目標の達成に着実に近づいているのである。

 それでは、黒田日銀の異次元金融緩和以降、雇用状況はどう推移したのか。まず失業率について見ると、異次元金融緩和前の2012年末には4.3%程度であった日本の完全失業率は、2016年9月時点で3.0%まで低下している。これは、1990年代前半以来の低さである。求職者に対する求人の比率である有効求人倍率は、同年9月で1.38まで上昇したが、これはバブル期の1991年8月以来の高水準であった。また、「雇用増加といってもその多くは非正規にすぎない」という根強い批判とは裏腹に、同年2月には、正社員の増加率が非正規社員のそれを21年ぶりに上回った。これらのデータは明らかに、日本の雇用状況が確実に改善されてきたことを示している。そして、2%というインフレ目標が未達であるということは、そこにはまだ改善の余地が残されていることを示しているのである。

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