ISISは壊滅する
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月7日 20時0分
ISISは拠点の分散化によって、傘下のテロ組織と共闘して支配地域を拡大させ、最終的にシリアとイラクをまたぐ「カリフ国」を樹立しようと目論んでいた。まるで吸い取り紙にインクをたらして繋ぎ合わせるような手法から、「インク・スポット」戦略と呼ばれる。
だがこのシナリオも実現しそうにない。ISISの傘下に入って繁栄した組織の例はなくみな衰退し、破綻は免れたとしても存亡の危機に直面しているような有り様だ。イエメンや西アフリカのテロ組織は内紛で分裂し、リビアやアルジェリアでは外敵に飲み込まれた。
ISISは思想面で近い他のテロ組織と手を結んでも、同盟関係を築くことができずにきた。基本的に他の組織と上手くやっていける体質ではないからだ。協力関係を構築するより、ISISはカリフ国の樹立に向けた絶対的な服従を強要し、組織の統一に突っ走る。その結果、味方になりそうな相手でも、最後は敵に回してしまうのだ。
シナリオ3)ISISの戦闘員はシリアかイラク、もしくは両国にまたがってテロ攻撃を続ける
これはまさに、01年の米軍によるアフガニスタン侵攻後、反政府武装勢力タリバンが歩んだ道だ。アメリカがイラクに介入した03年以降は、ISISの前身でイラクを拠点にした国際テロ組織アルカイダや、解体された旧フセイン政権の残党が合流したISISも、イラクやシリアでテロ攻撃を仕掛けてきた。
【参考記事】モスル奪還作戦、逃げるISISを待ち受けるのは残虐なシーア派民兵
このシナリオは前述の2つよりも現実味がある。ただし、カリフ国家を樹立し、防御を固めながら支配地域を拡大するというISISが最も重視した壮大な長期ビジョンからすると、かなりの後退だ。ISISがアルカイダや傘下のテロ組織と一線を画してきた理由は、そうしたビジョンにある。今もISISの信奉者は、非イスラムによる影響を一掃し、預言者ムハンマドの後継者たるカリフが支配する国家の樹立を目指している。
ISISの戦闘員は抵抗を続けるかもしれない。彼らを攻撃に強く突き動かすのは復讐心だ。だがISISがゲリラ型のテロ組織に変容すれば、もはやISISではなくなる。ISISの前身組織の戦闘員が設立し、今年7月にアルカイダ傘下から離脱したシリアのアルヌスラ戦線とも区別がつかなくなる。そもそもアルヌスラ戦線がISISとたもとを分かったのは、イスラム国家樹立という壮大な目標よりも、シリアのアサド政権打倒を最優先に掲げていたためだ。
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