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ISISは壊滅する

ニューズウィーク日本版 / 2016年11月7日 20時0分

シナリオ4)ISISは壊滅する

 もしISISの戦闘員が降参するか、他の組織に鞍替えし始めたらどうなるか。夢見る戦士たちは、カリフ国の敗北によって、壮大なビジョンの達成が不可能だと思い知るかもしれない。彼らの落胆ぶりはすさまじいだろう。スリルを求めて加入した戦闘員らは勢いのある組織に乗り替えるか、どこかへ身を眩ますかもしれない。

 そうなる可能性は高い。帰国した元戦闘員の社会復帰を促すデンマークのような取り組みが他の国々にも広がれば、衰退はますます早まる。事実、アルカイダなどのテロ組織は、失望や落胆を感じて孤立した高官を中心に離反者が続出し、求心力を低下させた過去がある。

シナリオ5) 組織による支援の有無に関わらず、元戦闘員や有志が世界中でテロ攻撃を継続する

 一時的であれ、これも可能性が高い。15年12月にカリフォルニア州サンバーナディーノで起きた銃乱射テロを含め、ISISの支配地域以外で起きた多くのテロ攻撃は、ISISの指揮命令系統によらないローンウルフ(一匹狼)型だった。

 カリフ国が壊滅すれば、プロパガンダを創出し普及させる求心力も、今より落ちるだろう。若者の想像力をかき立てて扇動し、戦闘員を調達するのにも、ますます苦労するはずだ。それでも短期的には、ISISのプロパガンダに騙され異常に傾倒するローンウルフは存在し続けるだろう。

ISISは短命のテロ組織

 歴史を振り返れば、国際秩序を敵に回して戦争を仕掛ける勢力やテロリストを、どうすれば効果的に一掃できるのかが分かってくる。

 19~20世紀初頭にかけて、世界中でアナーキスト(無政府主義者)が統治者や資本主義の象徴に反旗を翻した。フランスやアメリカでは大統領が、オーストリアでは皇后、イタリアは国王、ロシア帝国では大臣など、世界各地で多くの権力者が暗殺されたが、それらはアナーキストの仕業だった。ブルジョワジー(資本家階級)の威光を漂わせる建物からウォール街に至るまで、彼らは抑圧のシンボルとみなせば次々に爆破した。

 アナーキストの暴力の連鎖が止まったのは突然だった。1929年の世界恐慌を境に、アナーキストのテロ活動は一気に下火となり、攻撃も散発的になった。歴史家はそれには多くの要因が重なったという。

 そもそもアナーキストは反政府勢力の人々の心をとらえようと闘争していた。それに対して国家は、政治や社会の変革を推し進め、無政府主義に傾きそうな人々の不満の原因を取り除いていった。治安維持のための取り締まりや監視にも画期的な手法を導入した。更に警察組織は国境を越えて協力関係を築いた。そうした取り組みの結果、アナーキストの活動は衰退したというのだ。

 だが恐らく最も重要なのは、実現不可能なビジョンを達成しようとリスクの高い作戦に出るテロ組織は、短命に終わるという教訓だ。ISISにもそれが当てはまるかもしれない。



James L. Gelvin, Professor of Modern Middle Eastern History, University of California, Los Angeles

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.




ジェームズ・ゲルビン(カリフォルニア大学教授、専門は中東現代史)


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