「女性のひきこもり」の深刻さと、努力しない人もいる現実
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月14日 16時12分
彼女のように、親や環境から悪影響を受け、そこから逃れられないまま大人になったものの、うまく社会生活を送ることができない人はきっと多い。だから、それが「女性のひきこもり」問題としてクローズアップされなければならなくなったということである。
ひきこもっている人たちの状況は多様だが、その背景を丁寧に探っていくと、実は、こうした過去のトラウマ(心的外傷)を抱えたまま、心を閉ざし続けているようなケースが少なくない。トラウマには、PTSDのほか、解離症状、抑うつ症状などもある。(178ページより)
そういう意味では、彼女たちの声を聞き、その思いと向き合う著者の取り組みは評価されるべきだ。そして、その役割を担う人間は、今後もっと増えていくべきだろう。彼女たちの努力が報われる社会にしなければいけない。本書を読んで、そう強く感じた。
だがその一方、本書の主張が理にかなっているからこそ、気になる"別の現実"もある。私から決して遠くない位置にも1人ひきこもっている女性がいるのだが、彼女の生活は、本書のどの女性とも当てはまらないのだ。
【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい
ここに描かれているのは、なんとか現状を乗り越えようと懸命に生きる女性たちの姿である。前向きに努力しているのに、それを許さない。そんな社会の歪みに問題があることを指摘しているからこそ、説得力がある。
ところが私の知るその女性についていえば、20代のころから40代後半になる現在までずっと、「怖くて働けない」と言い訳のように繰り返しながら、どっぷり両親に依存しているのである。親もまた、そんな娘に危機感や疑問を抱いていないように見える。
本書に登場する女性たちが懸命に生きようとしている一方、努力しようという意思を見せないその彼女のようなタイプもいる。だとすれば、ここに描かれていない現実は、もっと深刻なのではないかとも感じてしまうのである。
『ひきこもる女性たち』
池上正樹 著
ベスト新書
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。
印南敦史(作家、書評家)
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