劣勢のIS、戦勝故事引用のバグダディ声明で殉教攻撃多発か
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月14日 17時10分
メッセージから判断できることは、バグダディ容疑者が戦闘員たちに最後まで戦い抜き、殉教しろと訴えているということだ。バグダッド西方のファルージャなどでは、比較的早い段階でIS戦闘員が敗走したケースがあるが、今回のバグダディ容疑者の声明を戦闘員たちがそのまま解釈すれば、モスル攻防戦は相当激しいものになる可能性がある。
【参考記事】ISIS指導部「最後の1人になっても死ぬまで抵抗せよ」
モスルを失えば、シリアとイラクにまたがるISの「カリフ制国家」が事実上形骸化し、イラクやシリアの国境線が基本的に決まった1916年のサイクス・ピコ協定の終焉を訴えた主張も意味をなさなくなるためだ。
「塹壕の戦い」では3000人対1万人という劣勢をはねのけてイスラム軍に奇跡が起きたわけだが、モスルに籠城するIS戦闘員は3000~5000人(アバディ・イラク首相)と見積もられるのに対し、イラク軍やクルド民兵組織などを合わせれば、5万人超の兵士が動員されている。これに米軍などの戦闘機も加わっており、塹壕の戦いとの比較はほとんど意味がない。
馬脚現す教典・伝承の恣意的解釈
宗教思想を使って士気を鼓舞するのはISの常とう手段で、ISはシリア北部の小村ダビクも過激思想のシンボルにしてきた。ダビクはハディースで非イスラム教徒とイスラム側の最終決戦の地と位置付けられてきたことから、ISは英字機関誌のタイトルにするなどして終末思想をあおってきた。しかし、ダビクに陣取っていたIS戦闘員たちは10月中旬、シリア反体制派の攻勢を受け、あっけなく撤退してしまった。
イスラム法学に詳しいロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)法学部のサラ・エリビアリー講師は「ISは組織に都合のいいイスラム法の解釈を用いており、ほとんどはその解釈自体に誤りは存在しない。こうした過激派側に立つムフティ(宗教指導者)に一部の支持が集まり、過激派に正当性を与えてISなどが台頭する背景になっている」と話す。
ダビクでも「塹壕の戦い」でもそうだが、ISはイスラム教にまつわる教えや伝承の都合のいい部分を抜き出して、独自の過激思想を構築してきた。だが、ダビクで敗退を喫した今、モスルでもバグダディ容疑者が訴えるような奇跡が起きなければ、宗教という衣をかぶって神秘性を高めてきたISは馬脚を現すことになる。モスルを失うことはISにとって相当なダメージであり、音声メッセージの内容からはバグダディ容疑者のそれなりの決意と覚悟が垣間見える。
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