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劣勢のIS、戦勝故事引用のバグダディ声明で殉教攻撃多発か

ニューズウィーク日本版 / 2016年11月14日 17時10分

【参考記事】ISISのプロパガンダと外国戦闘員が急減、軍事作戦効果

指導者殺害なら弱体化、第2ステージへ

 そのバグダディ容疑者はどこにいるのか。モスルに籠城していたとの情報もあったが、モスル攻略作戦が始まる前に逃げ出したとの報道もある。ISにとってバグダディ容疑者はカリフであり、殺害されてしまえば、相当なダメージとなる可能性が高い。カリフはムハンマド亡き後のイスラム共同体の最高権威者の称号であり、それなりの学識や出自が問われる。正統アラビア語を流ちょうに駆使できることは当然として、イスラム法学に関する知識やクライシュ族の男系の子孫であることも条件となっている。

 バグダディ容疑者は形の上では、一応こうした条件を満たしており、仮にバグダディ容疑者が死亡した場合には、次期指導者の選出はそれなりの困難が伴うことが予想される。国際テロ組織アルカイダなどとは違い、カリフを名乗ってしまったことはISにとってもろ刃の剣になりかねないのだ。

 バグダディ容疑者はメッセージで、戦場をトルコやサウジアラビアにも広げることを警告した。こうした訴えは本拠地であるシリアやイラクで劣勢になっていることの裏返しであり、戦場をイラクやシリアから国外に輸出しようとする試みである。サウジには王室に不満を持った過激派支持者もかなり存在し、新たなテロが懸念されるところである。

 筆者が居住するロンドンでも、知人がバグダディ容疑者の声明後に在英日本大使館から携帯電話に入った緊急情報に驚いていた。同大使館は「ISIL(イラクとレバントのイスラム国)の指導者バグダディのものとされる音声メッセージが公開され、ISIL戦闘員やその同調者に対してテロを呼び掛けました。声明を踏まえ、テロへの警戒を一層強化してください」と求めた。ISとの戦いは、シリアやイラクを超え、第2幕に入りつつあると言えそうだ。

[執筆者]
池滝和秀(いけたき・かずひで)
時事総研客員研究員、在英ジャーナリスト
1994年時事通信入社。外信部、エルサレム特派員、カイロ特派員などを経て、2015年8月より現職。


※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。



池滝和秀(時事総研客員研究員、在英ジャーナリスト)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載


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