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シンプルでちょっと弱気な新生ガガ様

ニューズウィーク日本版 / 2016年11月16日 11時0分

レイプ体験も赤裸々に

 女性にエールを送る「ダンシン・イン・サークルズ」など、コアなファンに向けた曲もあるけれど、今のガガはみんなと一緒に前へ進みたいらしい。

 もちろん、ガガは昔から時代の先を行っていた。有名になってから名声について歌う歌手は珍しくないが、彼女は最初から名声をテーマとしていて、08年のデビューアルバムも『ザ・フェイム』と題していた。

 3枚目の『ボーン・ディス・ウェイ』は、もっと政治的にリベラルだった。音楽的には80年代のマドンナやプリンスっぽかったが、LGBT(同性愛者などの性的少数者)のシンボルとなるには十分だった。



 そのままヒットメーカー路線を突き進むと思いきや13年には実験的な『アートポップ』を発表し、続く『チーク・トゥ・チーク』ではジャズの大御所トニー・ベネットとスタンダードナンバーをデュエット。そして『ジョアン』では、仮面を脱ぎ捨て等身大の自分を見せた。

 本物の歌手としての力量を証明するために、トニー・ベネットとの共演は欠かせない小休止であり、リセットだったのだろう。ニューヨーク大学芸術学部に早期入学し、ブロードウェイを愛した10代の頃の初心を再確認する機会でもあった。

 つまり、『チーク』があったからこそ『ジョアン』は生まれた。レディー・ガガとなる何年も前に、貧しいアーティストの卵だった彼女はニューヨークでピアノの弾き語りをしていた。『ジョアン』は当時の彼女の第2章だ。

 アルバム冒頭の「ダイヤモンド・ハート」で、ガガは当時を振り返る。生活のためにストリップクラブで働いた日々に触れ、さらに「クソ野郎」にも言及して「純潔を奪われた」レイプ体験で聴く人の共感を引き付ける。

社会派2曲はいまひとつ

 ステファニー・ジャーマノッタの袋小路から脱出するには「レディー・ガガ」のキャラが必要だった。そのガガの行き詰まりを打開するには、今回の『ジョアン』が必要だった。

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 そもそもガガのキャラは、デビッド・ボウイやマドンナの二番煎じだ。デビュー当時はともかく、ソーシャルメディア全盛で何でもありの今では、いささか色あせて見えるかもしれない。「等身大の自分」というのも、新鮮味には乏しい。カントリーやフォーク風の素朴なサウンドに乗せて真実を歌うのは、よくある常套手段だ。

『ジョアン』は目ざとく流行を捉えてもいる。今年はメランコリックなヒット曲が目立つ年で、リアーナやドレイクらベテラン勢はそろってポップな路線を離れた。ビヨンセの『レモネード』をはじめ、社会への不安を率直に表現する作品も増えた。

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