悪名高き軍がミャンマーで復活
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月29日 10時40分
これが12年の悲劇を再現させるのではないかという懸念が高まっている。同年、ラカイン州で仏教徒の暴徒がロヒンギャの地区を襲い、集落に火を付け、大量殺戮を行った。これにより、多くのロヒンギャが避難民と化した。このときの過激な仏教徒の行動は、地元当局がたき付けたと言われている。
先月のマウンドーの事件後、ラカイン州の仏教徒たちは軍への支持を叫んで行進し、ミャンマーの有力ジャーナリストたちはロヒンギャが軍に「非協力的」だと非難した。兵士たちが丸腰のロヒンギャを撃つのを見たとニューヨーク・タイムズ紙に語った記者は、後にフェイスブック上で証言を撤回した(どのような圧力があったのかは分からないが)。
ラカイン州の州都シットウェ郊外の難民キャンプで暮らすロヒンギャのリーダー、ヌール・イスラムは、「ロヒンギャの反乱」自体が軍のでっち上げだと言う。「政府の狙いは民族浄化だ。(私たちを)痛めつけ、消し去ろうとしている」
難民キャンプのロヒンギャの人々 Soe Zeya Tun-REUTERS
軍のでっち上げを裏付ける証拠はない。しかし、非営利の人権監視団体フォーティファイ・ライツの創設者であるマシュー・スミスによれば、「軍がこの状況を利用して、自分たちに好意的な感情を高めようとしていることは間違いない」。
文民政権も軍を黙認?
襲撃事件への対応で軍の人気が高まっているのを尻目に、目立った対応をしていない文民政権はいかにも無能に見える。実質トップのスー・チー(役職は国家顧問兼外相)も、彼女の側近として大統領を務めるティン・チョーもラカイン州を訪れていない。
「ミャンマーには2つの政府が存在している。文民政権と軍事政権だ」と、国際NGO「人権のための医師団」のウィドニー・ブラウンは言う。国防省や内務省、警察、移民・人口問題省といった重要機関は、今も軍が押さえているのが現状だ。
「国境地帯では軍の影響力が強い」と、ブラウンは言う。「そこへもって反乱への不安が高まっているため、ラカイン州北部は文民政権ではなく軍のコントロール下にある」
それでも、マウンドーの事件の前は、文民主導で平和に向けた動きが前進しつつあった。文民政権は軍の強硬な抵抗に遭いながらも、ラカイン州の宗教対立に関する諮問委員会の設置にこぎ着けた。コフィ・アナン前国連事務総長を委員長とする同委員会は、同州で現地調査を実施し、来年後半に諮問を答申することになっている。
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