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百田尚樹氏の発言は本当に「ヘイトスピーチ」なのか?~ヘイトを生む「保守」の構造~

ニューズウィーク日本版 / 2016年12月2日 15時40分



 そしてその「保守論壇」は、産経新聞と論壇誌「正論」を中心とした貴族的で、サロン的な、閉ざされた空間であった(産経・正論路線)、(参照*拙記事「温室の中の保守論壇」とヘイトスピーチ)。彼らは良い意味で喜捨の精神に優れ、そして高齢者が主体だから肉体言語から遠く、そしてその動作は緩慢かつ温和であった。当然、そういったある種の高級サロンの中で観測される人々は、思慮深く温順な日本人であり、暴力や犯罪から最も遠い。

 よって「保守論壇」とそれを支える支持者たちに、「日本人は高潔で、慎み深く、お互いに助け合う精神を持っている」という、根拠なき日本人礼賛の精神が涵養されていく。私はこれを「凛として美しく路線」と命名しているが、当然そういったサロンの中にいる人は皆温順なのだから、日本人全部が自分たちと同じ風に違いない、と思い込む傾向が、いわゆる「保守」とか「右派」の中に前提的に存在するのである。

 その、冷戦時代に形成された「凛として美しく路線」がインターネット時代になり、ネット右翼にそのまま伝播した結果が、現在なのである。そういった、「保守」とか「右派」の中に前提的に存在する気風、つまり「日本人は犯罪など侵さない」という根拠なき信仰が残存するからこそ、「犯罪者=在日コリアン説」が生まれる。百田氏は単にこれをトレースしているに過ぎない。百田氏は、「保守」とか「右派」の中に構造的に存在する背景をトレースしたにすぎず、繰り返すようにそれですらまだ「比較的穏健なほう」なのである。

強者であるが故の想像力の欠如

 先にいわゆる「保守論壇」とそれを支える人々が、"貴族的で、サロン的な閉ざされた空間"の中にいると書いた。それはインターネット時代になり、その「保守論壇」にネット右翼が寄生する現在になっても、いささかも変わることはない。「ネット右翼は社会的弱者だ」という人が未だにいるが、「ネット右翼の平均像は中産階級、大卒が多く、40歳前後の男性」というのが、私の調査と経験を元にした実相である。

 現在、「保守(論壇)」「右派」「ネット右翼」の三者が混然一体となっているので、上記の平均像はこの三者すべてに特有のものである。「保守系読者層」や「保守系政治集会への参加者」に限ると、その年齢層はもっと高くなる(+20歳以上)かもしれない。

 ともあれ、保守も、右派も、ネット右翼も、貧困に無縁な比較的富裕な「社会的強者」だからこそ(参照*拙記事「ネトウヨ」は社会的弱者ではない。だからこそ、根が深い。)、「日本人なら犯罪など犯さないはずだ」という結論に至っていく。自分の周りが同じような社会階層ばかりなので、犯罪傾向とは無縁で、日本国内の重大犯罪はどこか海外で起こっているかのような距離感がある。

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