南スーダンは大量虐殺前夜
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月13日 11時0分
「安保理は方向を見失ってしまった」と、ヨーロッパ外交評議会の研究員リチャード・ゴワンは語る。もはやアメリカと安保理の努力は「現実味に乏しい」。ジュバへの増派も無駄に終わる恐れがある。「既に武力衝突はジュバ以外の地域に移っている。ジュバのPKOを増強しても、南スーダン全体への混乱拡大は防げないだろう」
米外交団の致命的ミス
アメリカの決議案提出棚上げは、末期を迎えたオバマ政権の影響力低下を浮き彫りにした。と同時に、もっと早い段階で地道な根回しに力を入れなかったのは、米外交団の「戦略ミス」だという指摘がある。
決議案の内容を問題視する声もある。今回の決議案には、武器の流入阻止だけでなく、特定の南スーダンの政府指導者の資産凍結や渡航制限といった「ターゲット制裁」が多く含まれており、これが日本などのPKO参加国に二の足を踏ませる結果をもたらしたというのだ。
アメリカはタイミングを逸したと語る外交官(匿名を希望)もいる。ジュバで政府軍と反政府勢力が衝突し、PKO部隊や国際援助機関に犠牲者が出た今年の夏だったら、武器禁輸決議の採択はさほど難しくなかったはずだという。「アメリカはあのとき躊躇した代償を払うことになるだろう」
そもそもアメリカが2年以上も決議案の提出を遅らせてきたのは、民主的に選ばれた政府が反政府武装勢力に対抗する能力を奪うことになるとして、スーザン・ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が消極的な姿勢を示してきたから。ライスは、ウガンダなどの近隣諸国が武器の供給を続けて、決議の効果がなくなることも懸念した。
南スーダンは11年に住民投票によって独立を決めたが、13年にサルバ・キール大統領(ディンカ族)がリエク・マチャル副大統領(ヌエル族)を解任して、両者の確執が表面化した。やがてキール支持派がヌエル族の市民を虐殺し始めたため、マチャルは反政府武装勢力を組織。権力闘争は、多数派のディンカ族対それ以外の少数部族、という民族紛争に発展していった。
それでも昨年8月にはいったん和平合意が結ばれ、今年4月にはマチャルが副大統領に復帰。南スーダンは危ういながらも安定を取り戻したかに見えた。ところが7月にジュバで戦闘が再燃し、数百人の市民が虐殺され、マチャルは国外に逃亡。南スーダンは内戦状態に逆戻りした。
【参考記事】南スーダンPKOは「機能不全」、ケニアが国連批判で部隊撤退
アメリカはこのときマチャル支援を打ち切り、露骨なディンカ族優遇政策を取るキール政権を支持した。するとマチャルは、自分を支持する武装勢力に戦闘再開を呼び掛け、いずれ自らも南スーダンに戻ると約束した。
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