英国の反EU感情は16世紀から――ビル・エモット&田所昌幸
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月27日 18時2分
我々イギリス人がヨーロッパ大陸からの影響力に反発するのは、一六世紀にヘンリー八世がローマのカトリック教会との関係を断絶し、ローマ教皇の支配を脱した時代にまで遡れるだろう。それまで、つまり一五三〇年代になるまでのイングランドは、ヨーロッパの多くの地域と密接な関係にあったから、これは画期的な出来事だ。イギリスは、西暦四三年にはローマ帝国に、そして九世紀にはバイキングに、そして一〇六六年にはフランスにという具合に、何回か大陸からの侵攻を経験しているけれど、イギリス側の王様たちも、ちょくちょくフランスで戦い、一五世紀にはフランスの一部を占領したりしている。しかしローマ教皇と絶縁してからの五世紀間というもの、イングランド(一五世紀当時にはまだブリテンにはなっていないからね)は、大陸諸国をおおむね隙があれば襲ってくるかもしれない敵国として取り扱ってきた。もちろん実際にいつも敵対的だった訳ではなくて、イングランドはオランダ(一六八八年)やドイツ(一八世紀以降)から王族を輸入しているくらいなんだ。しかし、我々の外交政策はヨーロッパ諸国を、パートナーというよりも脅威として扱ってきたのは間違いない。産業革命のおかげでイギリスが強力になったので、我々の政策は大陸に介入的な傾向を示すようにはなったけれど、それはどの国も支配的な大国になって、我々の脅威にならないようにするためだった。
こんなことが今でも関係あるかって? それが現在でも我々の文化に通底している限りにおいてはね。例えばイギリスでは毎年一一月五日にガイ・フォークス・デーのお祝いをするけれど、これは一六〇五年にイギリスのカトリック教徒が、議会を爆破しようとして起こしたテロの未遂事件を記念する日だ。その頃イギリスはオランダで延々とスペインを相手に戦っていたけれど、このガイ・フォークスはスペインのためにイギリスに攻撃を仕掛けたわけだ。つまり、今ジハディストがシリアでいわゆるイスラム国(ISIS)のために戦い、それが例えばフランスに戻ってきて殺戮行為をやっているけれど、ガイ・フォークスは言ってみれば一七世紀版のジハディストのようなものだ。
【参考記事】ニューストピックス 歴史を変えるブレグジット国民投票
田所昌幸(左)、ビル・エモット(右、Photo: Justine Stoddart)の両氏
これに加えてイギリスの憲法上の伝統がある。イギリスには成文憲法はないが、その代わりに主権が議会にあるという原則がある。一七世紀のイギリスの大政治思想家ジョン・ロックの時代にまで遡れるこの我々の伝統では、人民は代議制度に従って、すべての権力を自分たちが選出した議員に委ねることになっている。ただし例外があって、それは議会の議員たちが決定を下すことが出来ず、自分たちの持っている立法権を他の主体に移すときだ。イギリスが一九七三年にECに加盟したときに実際にこれが起こって、結局政府は一九七五年にEC加盟をめぐるイギリス史上最初の国民投票を実施せざるを得なくなった。
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