英離脱後のEUは経済とテロ次第――ビル・エモット&田所昌幸
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月28日 11時25分
というわけで、イギリスのEU離脱が決まった国民投票が終わって、最も混乱しているのは労働党だ。労働党は多分分裂するだろう。新たな親ヨーロッパ的な中道政党が形成されて、反移民的なイギリス独立党(UKIP)と労働者階級の票を取り合うようになるかもしれない。そして、イギリスの政党システムにおける分断状況は、ことによると一層深刻な意味があるかもしれない。どういうことかと言うと、イギリスの制度を比例代表制度に近いものにする、大幅な投票制度の改革論が力を増しつつある。もっとも短期的には保守党が非常に支配的なので、選挙制度改革は自分たちに不利と考えるだろう。だがこれが何時までも続くかどうかは疑問だ。イギリスのEU離脱は保守党にとっても非常に辛く党の分裂を招くものであることは同じだからだ。ということは、ここでも分裂が起こるかもしれないし、私の希望を言えば、やはり選挙制度改革が真剣に検討されるようになるかもしれない。
From ビル・エモット
ビルへ
なるほどイギリスのEU離脱の影響はイギリス政治にとっても深刻だが、イギリス経済はEUから離れてもなんとか上手くやっていけるのではないかという気持ちがしている。離婚は確かに楽ではないけれど、不幸な結婚生活を続けるくらいなら、円満に離婚する方がいいのかもしれない。いずれにせよこれまでもイギリスはユーロやシェンゲン協定のメンバーではないのだしね。でもここにはジレンマがあるように思う。もしイギリスがEUを離脱しても上手くやってしまえば、大陸ヨーロッパ諸国内の反EU的勢力が力を増すかもしれないからだ。フランスでは「国民戦線(FN)」、ドイツでは「ドイツのための選択肢(AfD)」そしてイタリアの「五つ星運動(M5S)」などの勢いが強まるかもしれない。もちろん来年の選挙でFNのマリーヌ・ルペンがフランスの大統領になったり、ドイツでAfDが政権の座に着くことは考えにくいと思うけれど、イタリアがこの中でEUの結束の一番弱い部分のように思える。イギリスのEU離脱がEUの将来に対してどんな影響があるか、どう評価するのか。考えを訊かせてくれないか?
From 田所昌幸
【参考記事】ニューストピックス 歴史を変えるブレグジット国民投票
田所昌幸(左)、ビル・エモット(右、Photo: Justine Stoddart)の両氏
マサユキへ
経済の動向とテロ次第ではないかと思う。イギリスのEU離脱がFNやAfDのような反EU政党にとって追い風となり自信となったことは間違いないだろうが、だからといってそれで彼らが政権の座に近づいたとは思わない。ただ、テロ攻撃やまた経済的ショックが起こって主流派の政党の信頼が一層揺らぐことになると、話は別だ。しかしイタリアは事情が違う。イタリア経済はヨーロッパ主要国の中で一番弱く、世論調査ではM5Sは、マッテオ・レンツィ首相の中道左派政党である民主党に肉薄している。イタリアも一〇月(*)に憲法改正に関する国民投票があり、レンツィ首相はもしそれで敗れれば辞任すると公言しているが、今の情勢ではどうやら彼の敗北はかなり可能性が高い。ということは、イタリアも二〇一七年初めに総選挙をやらざるを得なくなるかもしれない。M5Sはかなり混乱しているが、ことによると総選挙で勝つかもしれない。彼らは必ずしも反EUではないけれど、イタリアがユーロ圏に留まるかどうかについて国民投票を要求している。そうなると途方もない混乱を金融市場で招きそうだ。イタリアが目下のところEUの安定性に対する最大の脅威だという点では、マサユキ、君に賛成だよ。イギリスのEU離脱について言えば、ここ二─ 三年はイギリスは相当の痛みを経験するだろうけど、これについても君の言うとおりで、イギリス政府が貿易金融で開放的な姿勢を維持し続ける限りは、それから回復できるだろう。イギリス政府も実際そういう方針のようだが、EUの安定性については、それほど楽観してはいない。
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