英離脱後のEUは経済とテロ次第――ビル・エモット&田所昌幸
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月28日 11時25分
From ビル・エモット
ビルへ
正直に言うと、今回の国民投票はきわどい勝負なのは判っていたけれど、最終的には常識が勝利して残留派が多数になると思っていたよ。実は同様にトランプが米共和党の大統領候補になるとは、本気で思ってはいなかったけれど、ここでも予想を外した(**)。こういった「ポピュリズム」と一般に言われる現象が大西洋の両岸で同時に起こって、政治的にも知的にも既成勢力に反旗を翻していることを、我々はどう解釈すべきなのだろうか。こういった現象の底流には、何か共通するものはあると思うかな? 我々のこのやりとりが『アステイオン』に印刷されて日本の読者の目に触れるころまでには(翻訳やら校正やらで遅くなってごめんね)、アメリカの新大統領も決まっているだろう。もしトランプ大統領当選ということにでもなれば、その帰結はイギリスのEU離脱よりも遙かに深刻だろう。僕としてはまだそれは起こらない方にかけるけれど、今回の国民投票の例から見ても、何が起こるかも判らないからね。
From 田所昌幸
マサユキへ
EU離脱とトランプ現象の共通項は、二〇〇八年の金融危機とその後の、一九三〇年代以来最悪かつ最長の不況だと思う。このせいで、一般市民の政治経済システムへの信頼が、大いに失われたし、そういった人々が新たな意見や、新たな約束、それに一見したところ新たな政治的魔術師の言うことに影響されやすくなったからね。これは英米のように、選挙の勝者が総取りしてしまうような政治制度をもっている国では、疎外されている少数派の声がちゃんと政治の場に反映されないから、とりわけ危険なものになる。どうやら我々は自分たちの政治制度が最も基本的な原則を今後も維持できるのかどうかを真剣に考えないといけないだろう。それは、政治的権利と発言権の平等という原則だ。
From ビル・エモット
*イタリア政府は9月、国民投票を12月4日に実施すると発表。そして実施された国民投票では、憲法改正案が否決され、レンツィ首相は辞意を表明した。(編集部注)
**トランプは11月の米大統領選本選で米民主党のヒラリー・クリントンに勝利した。2017年1月、第45代大統領に就任する。(編集部注)
(この両者のやりとりは、二〇一六年七月後半に行われた。なお、英語の原文はwww.suntory.com/sfnd/asteion/correspondence/index.htmlで公開している。)
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