靖国参拝で崩れた、真珠湾追悼の「和解」バランス - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月29日 15時40分
兆候はありました。安倍首相の真珠湾献花に前後して、留守を守っていた今村雅弘復興相が靖国神社を参拝していたのです。その時点では「日本の一部世論を意識すると、安倍首相の真珠湾献花は謝罪ニュアンスが伴うので、そうでもしないとバランスが取れないのか」というような嫌な感じがしただけでした。
ですが、稲田防衛相が参拝したとなると、これは話が違います。3つ大きな問題点があるように思います。
1つは、これでは、2017年以降少しずつ呼びかけを行って、今度は中国との相互献花・共同追悼の外交を進める、という期待感に水を差すということです。内外に抵抗の予想されることだけに、慎重に進めなくてはなりませんが「いきなりマイナスからのスタート」ということになったわけです。
2つ目は、トランプ新政権が当面は取っている「台湾重視、中国とは軍事バランスを探るためにジャブの応酬」という「暫定的な敵対姿勢」という文脈にピタッとハマる格好になるという問題です。この点に関して言えば、経済合理性を軸に「バブル経済」の拡大を志向しているトランプ次期政権が「いつまでも中国と関係を悪化させたまま」である「はずはない」ということを、考えなくてはなりません。
そんな中で、万が一にも「日本独自の力」で中国とのバランス・オブ・パワーを負担するような「ハシゴ外し」をされたら、日本は経済的に破綻へ向かってしまいます。この問題は極めて緻密な話であって、今回の防衛相の行動は軽率であると言わざるを得ません。
3つ目は、A級戦犯合祀の問題です。防衛相は参拝の主旨として、「真珠湾の和解を戦没者に報告した」という言い方をしているようで、その点に関しては異論を差し挟む余地はありません。ですが、東条英機陸軍大将以下、7人の刑死者について、「昭和受難者」として合祀がされ、それに対して中国が強い異議を唱えている中では、「アメリカとの相互献花・共同追悼外交の完結」の勢いに乗る形で、現職の防衛相が参拝をするというのは極めて政治的と言わざるを得ません。
【参考記事】安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろう!」
何が問題かというと、7人の刑死者というのは「自身が犠牲になることで戦後日本の平和と安定が実現するのであれば」という末期の思いを込めて死刑台に登った方々であるという特殊な事情があります。連合国側には昭和天皇の訴追や処刑を望む声もある中で、7人は天皇訴追という「国のかたちの崩壊」を回避するために、命を捧げたという思いもあったかもしれません。いずれにしても、7人とその遺族の方々には、昭和天皇との間に、そして戦後日本との間に一種の「黙契」があったと考えることができます。
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