新聞は「科学技術」といいつつ「科学」を論じ切れていない
ニューズウィーク日本版 / 2017年1月6日 15時20分
基本的位置づけがそうであるから、いきおい資金配分の話が頻出する。資金配分に関する論調を筆者なりに要約するとおおむね次のようになる。
「本来増額が必要だが、財政難なので効率化が必要である。もちろん無駄をなくすと同時に、知名度ではなく将来性に投資し、投資判断を年配者から若手にシフトすることで先端分野の事情にマッチさせ、ヒット率を上げることが重要だ。資金配分機関と資金は集中させて司令塔を作り、戦略と投資の狙いを明確にすべきであるものの、短絡的な数値目標の達成を厳しく問うのは時期尚早である」
「科学技術予算に手綱をつけろ」と「科学技術予算を締め付けすぎるな」の反対方向の議論の両方が含まれている。こうしたことが起こるのは、科学技術の四分法や時間軸があまり区分されていないからではないか。
たとえば、「『科学的技術』の予算に関しては、手綱をつけろ」「『技術的科学』の予算に関しては締め付けすぎるな」としたり、「『科学的科学』の成果を『科学的技術』と同じ尺度で評価するな」「『技術的技術』は『科学的技術』への重点投資に便乗したり横取りしたりするな」などと区分をはっきりすると、より論点も明確になるのではないだろうか。
また、「技術(多くの場合は、科学的技術)」を実際のテーマとする記事の際は、「日本の科学技術は」などと書くよりは、「日本の技術は」と、技術という用語で通した方がいいかもしれない。科学技術という言葉から始まり、あたかも科学と技術を論じているのかと思いきや、「揺らぐ日本の技術を立てなおそう」ということが主題の記事であることが、読み進むうちに分かる場合もある。
大手組織ジャーナリズムの科学技術担当記者が書く記事では科学と技術の区分、ましてや科学技術の四分法がそれほど意識されていない。であるからして、一般読者においても科学と技術が区別して意識されることが少ないことは容易に想像される。また、先に見たように政府の世論調査でもほぼ技術のことが科学技術と呼ばれ、その結果を報道する記事も、「国民の科学技術への意識の変化は云々」と立論されることになる。
【参考記事】理系人材が育たない日本の硬直した科学教育
「技術」が「科学」を利用してきた
ここまで長々と、技術と科学の用語の用法に日本の社会が無自覚であること、それによって技術と科学の概念の区分まであいまいになっている可能性があること、さらには対策や政策が混乱したり有効性が低下したりしてしまう懸念があることを、指摘してきた。概観すれば、「科学」という言葉とイメージが、「技術」への国民意識や資源の投入入り口に活用されてきた、「科学」が「技術」への動員のために利用されてきたと言えなくもない。
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