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トランプ新政権で方向転換を迫られるアベノミクス - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2017年1月17日 17時40分



 例えばカローラのような廉価な製品はメキシコで安く作る方針なので、アメリカでは「R&D(研究開発)」やデザイン開発などの機能、それからレクサス・ブランドで売るような高付加価値製品の製造を拡大するということです。レクサスに関して言えば、従来はすべて愛知の田原工場を中心とした日本での製造だったのが、近年は主力車種のES(旧日本名ウィンダム)なども米国製へと切り替わっています。

 ホンダにいたっては、もっと現地生産を徹底させていて、国内生産の輸出比率はパーセントで1ケタというのが現状です。何が特殊なのかというと、アメリカなどがやっているように付加価値の低い大量生産部門を空洞化させるだけではなく、日本の場合は高付加価値部門や頭脳労働の部分を先進国に出してしまうという、いわば「上方へ抜けていく空洞化」が起きているのです。

 では、どうして円安と株高が連動するのかというと、トヨタ株というのはNY市場では超一流の証明である「TM」という2文字のシンボルで取引されています。基本的にNY市場で価格が決定されますが、世界中で24時間取引されています。その株価は円安になれば円で見れば膨張するし、円高になれば円で見れば下がる、それだけのことです。そして、北米市場という巨大なマーケットで稼いだカネは、今回の「1兆円投資」に見られるように、北米に再投資されるのです。

【参考記事】2017年働き方改革のツボは「権限・スキル・情報」の集中

 問題は、円安がこの「上への空洞化」を後押ししているという点です。自動車などの多国籍企業の場合は、日本の国内本社というのは、いわば持株会社になっています。そして生産も研究開発も「稼ぐ」機能は流出してしまっています。結果として、円安になれば海外で稼いだ利益は「円で見れば大きく」なるのです。反対に国内にある本社の機能がどんどん細って、海外中心の経営、つまりドルを基軸通貨にした経営にシフトした場合も、非効率な国内事務部門のコストは円安になれば小さくなります。

 また、現在トヨタがウーバー社との協業を模索しているように、自動車産業にとっては自動運転などAI技術の導入が大きなテーマになっています。ですが、こうした種類の人材のコストは国際市場で決定するので、円安になって国際水準より安く抑えられた日本の賃金体系には馴染みません。ですから、そうした最先端の人材は国外に置いておいた方が「何かとうまくいく」ということもあるでしょう。

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