トランプ新政権で方向転換を迫られるアベノミクス - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2017年1月17日 17時40分
つまり、過度の円安は「稼ぐ部門」や「高度な研究開発部門」を国外に流出させる「日本特有のの上への空洞化」を後押ししているのだと言えます。ここにアベノミクスの「第一の矢(金融緩和)」だけが機能して「第三の矢(成長戦略)」すなわち国内の構造改革が動かない問題の原因があります。第三の矢に時間がかかるので、第一の矢を頑張っている、という説明は誤りであり、第一の矢だけやっていたら、いつまでも第三の矢は放たれないということになります。そして、第三の矢、つまり国内が高付加価値創造型の社会に転換するという改革ができなければ、いつまでも景況感は好転しないでしょう。
この構図にこそ「目標インフレ率」が未達成になる原因があると考えられます。円安政策はそろそろ見直す時期なのです。
さて、今週20日にアメリカではトランプ政権が発足します。この新政権とアベノミクスの相性はどうかというと、これは良くないと考えられます。まず、当選以来ずっと「トランプ相場」が続く中で、「強いドルと安い円」が続いてきたわけです。共和党政権でしかもビジネス・フレンドリーな政権ならば「強いドル志向」だという市場の思惑の結果ですが、これは本来のトランプ政権の性格とは違います。
トランプ氏は徹底して空洞化に反対し、保護貿易を主張し、そして「中国や日本の為替操作を許さない」という発言をしてきています。ということは、どこかの時点で円高ドル安への転換を促すメッセージを出す可能性は高いだろうと考えられます。
同時にトランプ氏は、「分厚い製造業の雇用を回復するが、同時に高度な研究開発でも世界の最先端を走り続ける。両者がアメリカ経済を牽引する」という主張もしています。アメリカのリーダーとしては、理解できる発言ですが、例えば日本の自動車産業ということで言えば、トランプ氏の政策に迎合すれば、何もかもが北米に吸い寄せられて日本国内には軽自動車の工場以外は何も残らないということになりかねません。
過度の円安は方向転換をして、「上への空洞化」をストップする、その上で国益をむき出しにしてくるトランプ政権に対して、何が自分たちの本当の国益なのかを考えて、是々非々で臨むということが必要でしょう。そのためにも、丸4年を迎えるアベノミクスは方向転換の必要があると思います。第一の矢を少し引っ込めて、第三の矢に真剣に取り組む時期に来ています。
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