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英メイ首相の「ハード・ブレグジット」は危険な賭けか

ニューズウィーク日本版 / 2017年1月20日 8時47分

 英国のメイ首相は、ついに彼女にとっての「ブレグジット(英国のEU離脱)」の本当の意味を明らかにした。英国は欧州連合(EU)を完全に脱退し、独自路線を歩むが、その一方で、EUとの包括的貿易協定の合意が得られることを期待する、というものだ。

 英国は、製品・サービス双方にわたるEUの巨大な単一市場から離脱し、その代わりに「大胆で野心的な」自由貿易協定(FTA)の締結を試みる。ノルウェーやスイスといった一部の欧州諸国が世界最大の経済地域であるEUと結んでいるような貿易協定は否定された。

 メイ首相は17日に行った演説で、離脱交渉を2年以内に完了するとして、EUとの協力を強調し、ブレグジットに向けた「段階的な」移行過程を求めた。

 首相演説を受けて、このところ下落していた英ポンド相場は同日回復し、対ドルで1日としては少なくとも1998年以降で最大となる上昇を記録。だが、EU諸国の政府首脳からは、微妙な反応が返ってきており、メイ首相が望んでいるような貿易協定への合意は、苦痛も伴う難しい作業となる可能性を示している。

「こちらから奪うばかりだ。差し出すものはどこにあるのか」とチェコのプロウザEU問題担当相は、ツイッターに投稿。アイルランド政府は、ブレグジットの規模については何の幻想も抱いていないと述べている。

 メイ首相は交渉上の優先課題として、移民制限、欧州司法裁判所(ECJ)管轄からの離脱、EU関税同盟の正式加盟停止など12項目を挙げた。関税同盟への加盟は英国独自の貿易協定締結の妨げとなっているとしたほか、欧州とはなるべく摩擦のない形で貿易を維持したいとの考えを明らかにした。

 包括的な自由貿易協定(FTA)を目指すことによって、メイ首相は、加盟国間の移動の自由やEU予算への多額の拠出といった政治的に評判の悪い妥協をほとんど考えずに、白紙に近い状態で交渉に入ることが可能となる。


FTAに見込みはあるか

 だが、FTA合意に至るプロセスはリスクに満ちている。メイ首相は、EUと英国の今後の関係について2年以内に合意し、その後に導入期間を設けたいと発言した。

 しかし、自由貿易協定の交渉には通常、2年よりもはるかに長い時間がかかる。カナダとEU間のFTAの場合、予想される発効時期までに7年かかる見込みだ。

「合意形成をめぐる不確実な状態が長く続けば、経済にとって大きな問題となるが、これを克服するために消費者によけいな出費を求めるわけにはいかない」と英有力シンクタンク、国立経済社会研究所のジャグジット・チャダ所長は語る。

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