「使えるファイナンス」をもつ人材が日本に足りない
ニューズウィーク日本版 / 2017年1月30日 17時12分
そんなビジネスの猛者たちに、こちらの意見を伝え、説得し、動かす力が「ファイナンス」なのです。私にとってビジネスとは「戦い」であり、ファイナンスは「武器」なのです。
しかも、その応用範囲は、なにもM&Aだけにはとどまりません。新規事業を立ち上げるときや、業務提携を行うときなど、企業の大きな意思決定にはすべてファイナンスが使えるのです。
ファイナンスが力を発揮するのは、まだまだこれだけではありません。
例えば、バックオフィス業務なら、グループ全体を俯瞰的に見て、自分の行うべき業務を理解できるので、効率的な仕事が可能になります。何か問題が起こったときの発見もスムーズになり、再発防止のための改善点についても効果的なアイデアが出せるようになるでしょう。
営業職についている人なら、顧客企業のビジネスに対する理解度が深まり、顧客企業が今抱えている経営課題を瞬時に言い当てることができるようになります。その課題の解決策を自社製品の販売につなげることで、より高い付加価値を顧客に与えたり、結果としてより高いマージンを得たりすることができるようになるでしょう。
製品の開発部門にいる人なら投資の意思決定に役立つでしょうし、システム部門なら企業分析などでファイナンスを活用する場面は多々出てくるはずです。
ファイナンスは、ビジネスの世界において非常に良く切れる「刀」のようなものです。ビジネスの世界に入ってきたばかりの足軽のような存在でも、ファイナンスという刀をうまく使いこなせるようになれば、立派な侍になることだってできるのです。
この20年で、1年間に世界中で行われるM&Aのボリュームは約10倍にもなっています。もちろん、これは一時的な流行ではありません。グローバルな社会・経済の大きな変化を表しているのだ、と私には感じられます。
M&Aの増加の背景には、IT技術の発達でベンチャー企業の成長スピードが加速していることや、国内の市場が成熟してきたために既存の事業計画では過当競争に負けてしまう、ということもあるでしょう。
ただ、ファイナンス技術がこの20 年間で急速に進化してきたことも大いに影響がる、と私は考えています。
ファイナンスという概念は昔からあるもののように思われがちですが、それがしっかりと活用できるような法体制や環境が整ってきたのは割と最近です。
その証拠に、ファイナンスという言葉の意味さえ、現時点ではまだ明確に定義づけられていません。ファイナンスとは、おそらく一般の方々からすると「財務」のようなイメージでしょうし、「ファイナンスする」という言葉は、資金を調達するという意味で使われています。ファイナンスの認識は非常に曖昧なものに感じられます。
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