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難民入国一時禁止のトランプ大統領令──難民の受け入れより難民を生まない社会づくりを

ニューズウィーク日本版 / 2017年2月6日 16時0分

そもそもこのような戦争が仕掛けられなければ、難民が生まれることもない。しかし、あるアメリカ人のジャーナリストが嘆いていたように、そのような議論さえ一般的にアメリカ社会内外でされていないのが現状だ。その理由の一つに、近年、軍事産業が発展するにつれて、武器が、戦闘地に送られるタンクから、遠距離から操作できるドローンへと変わり、戦争の実態がますます不可視化していることが挙げられる。そのため、上記の「難民を入国させよ」デモの参加者の中には、「戦争反対」のデモに参加した人は少ないことだろう。

アメリカなどが過去に難民入国禁止と追放に関与

ドイツのメルケル首相が述べたように、ジュネーブ条約により、「国際社会」は人道的な理由から難民を受け入れる義務がある。しかしアメリカは1980年代以降、犯罪人や「テロリスト」でないにもかかわらず、近隣国のハイチ難民に入国を禁止してきた歴史がある(西アフリカの国々はアメリカに追随し、同様な政策をとった)。

ちなみにトランプ大統領は「私たちの政策は、オバマ大統領が2011年にイラク難民に対するビザを6か月にわたって停止した政策と似ている」と述べたが、正確には停止ではなく、ビザ発行が「減速」しただけである。

難民の受け入れ以外に、「国際社会」はもう一つ重要な義務がある。それは難民条約第33条「追放及び送還の禁止」(「ノン・ルフールマン(non-refoulement)」の原則)で、難民は彼らが迫害の危険に直面する国(母国を含む)への強制送還や恣意的な逮捕から難民を守ることを意味する。最も重要な難民保護の礎石なのだ。



しかし難民を入国させる前、あるいはさせた後に、難民を国外追放した国々はいくつかある。難民が何の罪も犯していないにもかかわらずだ。

例えばオーストラリア政府は、ボートで漂流した難民や移民を自国に定住させず、ナウル島とマヌス島の難民収容所に送り込んだ。そこで難民は拷問にあい、幼い子どもまでが自殺未遂を考えているぐらい苦しんでいるという(アムネスティ・インターナショナル、2016年)。

またイスラエル政府は2013年以降、自国にいたスーダンとエリトリア難民申請者約一万人を、ルワンダとウガンダに強制追放した。ネタニヤフ首相は「これらの人々が来たことで、イスラエルのユダヤ人のアイデンティティーが脅かされた。この問題を止めなければ、6万人の侵入者が60万人にと膨れ上がり、ユダヤ人、そして民主主義国家としてのイスラエルが否定されてしまう。シリアやアフリカ難民の悲劇に無関心ではないが、イスラエルは小国なので、不法移民とテロに対して国境を支配しなくてはならない」と述べた。

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