難民入国一時禁止のトランプ大統領令──難民の受け入れより難民を生まない社会づくりを
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月6日 16時0分
これらの難民政策は強硬的であるにもかかわらず、ほとんど無視された。それに比べると、オーストラリアとイスラエル同様に人権侵害である今回のトランプ大統領令は、世界中で大変注目を浴びている。なぜなのか。それは、選挙キャンペーン中から不人気のトランプ大統領が就任8日目という早い時期に、7カ国と国を限定し、人種・宗教差別とも言える大統領令を発令したからだ。それに加えて、本大統領令が発令されたのが、たまたま国際ホロコースト記念日という第二次大戦で殺害された何百万人もの人々を敬う日であった。当時は多くのユダヤ人がアメリカへの避難を試みたが、入国を阻止された。その苦い歴史をトランプ大統領が繰り返そうとしているという懸念と怒りが、さらに世界の人々を掻き立てるのであろう。
難民の持続的解決策とは?
最後に、難民にとってアメリカなどでの定住は果たして持続的解決策なのかを考えてみよう。
現在、私はある難民研究のために北米に出張中で、2015年以降、アメリカに定住しているコンゴ難民に会った。彼がアフリカ某国での難民キャンプで20年近く生活していた時に、2度会ったことがある。彼は、難民キャンプという安全も自由もない「刑務所」から脱出できたことを感謝し、また難民ではなく一人の人間としてアメリカで生活ができることを大変喜びつつ、こう言った。
「アメリカで一生生活したいとは思わない。ここは自分の国ではない。いつかはコンゴに帰りたい」
自分の父親が殺害されたせいで、故郷への帰国に恐怖を抱きながらも、そしてコンゴの現政権に不満を持ちながらも、やはりhome(故郷)はhomeなのだ。彼にとってアメリカでの定住は、あくまでも一時的なもう一つの解決策(alternative solution)にしかすぎない。
これはあくまでもこのコンゴ難民個人の意見であり、当然、難民全員の意見を代表していない。しかし私がこれまで会ってきた難民の多くは、母国がどんなに混乱状態にあってもノスタルジーを抱き、母国に帰りたいと嘆いていた。
そう、母国が安定すれば、帰還が最善の解決策なのだ。
***
以上のことから、我々は上記の「難民の受け入れ」ではなく、「難民発生の予防」にもっと努力を尽くさなければならない。難民はそもそも政治的な理由からつくられた人工的な存在である。なので、各政府をはじめ、我々市民一人一人に難民問題に関する理解を十分に持ち、強い政治的意思さえあれば、難民数を減らしたり、難民を無くすことはできるはずだ。
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