昭和30年代のようなマニラのスラムの路地
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月16日 15時30分
以上には「無休の産科」「巡回医療」などまだ着手出来ていないことも入っているが、彼らのビジョンとしては始められるところから確実に進めようとしているらしく、そこにはフィリピン社会との難しい問題もあった。
例えば、彼らの多くはカソリック教徒である。今年ようやく法王が中絶の罪を許す期間を無期限とすることを明らかにしたが、それでも信者は産むことを選ぶ。というか、周囲が中絶を許さないから、貧困家庭はより貧困になる。彼らは避妊を知らず、知っても抵抗があり、妊娠すれば必ず産まねばならず、育児にまた金がかかり、子供と共に貧困が深まり、という悪循環だ。
また、もうひとつ非常に重要な問題が横たわっている。フィリピン自体はすでに貧困国ではなく、中所得国だということだ。通常は国際機関、あるいは団体の援助の順位が下がるのである。その首都マニラの中に広大なスラムがあっても、全体が中所得国であるがゆえに、例えば安くなるはずの薬価が一般価格になってしまう。実は貧困国よりも援助が行き届かない現実がそこにはある。
ジェームスたちのミッションは、だからこそ難しいのだった。簡単に進みそうなことのひとつひとつに壁があり、したがってリカーンのような現地組織との連携が必要なのだ。
スラムへ
さて、ブリーフィングが終わると、まさにそのタイミングでオフィスのフィリピン女性が飛び出してきて、俺にスタッフの電話一覧表をくれた。話が済むのを陰でじっと待っていたらしい。
彼女は「日本で有名な作家さんなんですよね?」と俺に微笑みかけながら言った。「そんなことないですよ」と答えると、彼女は「いえいえ知ってます。あたし、ネットで調べたんですよ」と恥ずかしげに、しかし人懐っこく言う。そうした気遣いの細かさに、俺は自分が小さな頃の日本と同じものがあると感じた。俺たちが失っている雰囲気を、彼女は持っていたのである。
あれやこれやが完了して、俺たちはジェームス、ロセル、そして現地スタッフのくりくりした目のフィリピン人男性(健康教育担当スタッフのジュニー・アベラジュニ)と共に、バンに乗り込んだ。
車が発進してすぐ、右側に芝生の美しい公園が見え、スペイン建築らしきものが確認出来た。それがイントラムロスという観光地で、左の海岸手前にも芝生の一帯があった。実際に中国からの観光客だろうと思われる団体がバスから降りていた。
ところが、公園地帯を過ぎて川を橋で渡ると、すぐに掘っ立て小屋の連続になった。左側には巨大なトラックのタイヤが積まれ、その脇に大量の土砂とゴミが山になっていた。ところがそれはゴミ置き場ではなかった。後ろ側に崩れた木造の家々があり、人が歩き回っている。男は上半身裸が多かった。うろうろする幼児の中には丸裸もいた。
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